元々私は人より食に拘りがあった。内側からその人をつくり上げるものだ。お腹が膨れたら良いってものではない。常々そう強く語っていた。だから憧れの海賊になれた時、食事担当になれるなんて人生の幸せというものを使い切ったと思ったものだ。
それでも人は欲というものは尽きない。海賊だし欲しい物はいくらでもでてくる、なんて自分に言い訳をしてみたりもする。
新たな欲というのは一番隊隊長のマルコのことである。白ひげ海賊団の一員になり、気がつけばあっという間に心を奪われていた。
彼はこれだけの人数がいようと誰にでも隔てなく優しく声をかけてくれる。もちろん私だって例外ではない。ただ隊が違うためあまり関わることができず、遠目でも見れたらラッキーな方だと思う。
しかしそんな私にも関わることができる時間がある。
それは私が当番の日である。この日ばかりは一日中食堂にいるものだから、食事をとりに来た彼と言葉を交わすことができるのだ。
「今日はなまえが当番か、いつもありがとな」
今日も今日とていつ来るかとそわそわしながら、次から次へとやってくる船員に追われているといつの間にか彼がいた。
「こちこそ、毎回そう言っていただけて嬉しいです」
どうぞ!と気持ち多目に盛った食器を渡すとうまそうだなと受け取ってくれた。たったこの一言だけでも今日はいつもより良い一日になるぞ!とテンションが高々である。
そんな私にクスリと笑いポフっと手が頭にのせられた。
「なまえが当番だと明るくていいな」
それだけ言うと乗せていた手をヒラヒラとふり他の隊長が集まっている所へ行ってしまった。そんなふうに言われて私も気分がいい。私を明るくしてくれるのはあなただというのに、それをいいと言ってもらえるなんて、明るく振る舞うことを心がけてみようかとすら思えてくる。
いつも食器を戻す時に美味しかったと言ってもらえる。そのことに喜びを感じると共にもっとレパートリーを増やしたいとも思う。海の上での楽しみなんて、食事だもんな。少なくとも私とエースはそうだと思っている。
そのためサッチ隊長の本を借りてみたりオリジナルメニューを考えて試作をしてみる。しかし思ったような味や食感にならなくて疲れてきてしまった。
息抜きをしよう、そう思い自身で購入し管理している材料からお菓子を作りはじめた。料理をしていて気分転換も料理なんて、と渋い顔をされたことがある。私にとっては同じようで全然違うものだ。お菓子は無心になれる疲れに糖分が染み渡る感じがとても気に入っている。
ただエースにバレるとほとんど全部持っていかれるのでバレませんように、と毎回お祈りをするのだ。
今回もバレませんように、と願ったのにカチャリと扉が開いてしまい一瞬体が強ばった。
もう焼き上がるところのため確実に匂いでわかってしまう。ちらりと音がなった方へ目をやるとそこにいたのはエースではなかった。
「マルコ隊長」
「ん、甘い匂いがするな」
「すみません!おやつ作ってました」
私用で使っている引け目からつい謝ってしまったが彼はそんなことで怒る人ではない。
「何作ってるんだい」
「フィユタージュです」
力仕事と細かい作業をしたい時はもっぱらこれである。シンプルな物は長方形だったりリーフ型だったりするが、自分用なので一口より少し小さめなサイズでお花の形にしたりハート、星、立体的に薔薇にしたり失敗を前提に好き勝手に作っている。
「へえ、うまそうだな」
甘い物を好んで食べないことを知っている。お世辞だろうが、ちょうど焼きあがったそれをよろしければとお皿に移して渡してみると意外にも素直に食べた。
「書類がたまっててな、いい甘さだ疲れもとぶよい」
「それなら良かったです」
コーヒーもどうぞ、と渡せば受け取り一口飲んでため息をついた。そして頬杖をつき私を優しい顔で見てきた。
「今朝も言ったがなまえの作る飯がいつも楽しみなんだ」
「そんな」
「今日はおやつまでもらえてラッキーだな」
「サッチ隊長にはまだまだ適わないですよ」
隊長という筋書きは本当にその通りで、戦いができるのはもちろんだが、あらゆるバランスが良いのだ。彼の料理を食べる度にいつになれば肩を並べられるのかと落ち込むほどだ。
「そうかい、俺にとってはなまえが一番だよい」
「そんなに褒めていただけるなんて、四番隊隊員として嬉しいです」
「参ったよい、手強いな」
眉を下げて苦笑する姿に何か変なことを言ってしまっただろうかと会話を振り返るが、特に思い当たらない。強いていえば素直に受け取らず自信が持てないことが、褒めてくれた彼に対して失礼にあたったかもしれないということだ。よくわからないが大事そうに一つ一つ口にしてくれる姿に、今日はすごく良い日だなと顔が緩んでしまう。そんな私を見てまたゆるりと微笑む彼に見とれてしまうのだった。