付き合っているわけではない。好きだとか付き合おうだとかそんな言葉を交わしたことがない。お互いいい歳をしているわけで、なおのことわざわざ言うことはなかった。大事にされている自覚はある。夜に彼の部屋に行けば壊れ物のように触れられ抱きしめられキスを落とされる。でもそれだけなのだ。その先にすすむことがない。つまるところ、人肌が恋しいだけで付き合っているわけではないのだろうと判断した。まあクルーに手をだしても面倒事になるだけどろう、そう言い聞かせているところもある。
寝ているかもしれない、そう思い小さくノックをすると開いていると声が聞こえた。寝ていても気配で起きるだろうから意味の無い配慮である。
「きちゃった」
「寝れないのかい?」
「ちょっとね」
寝つきが悪くてと返すと心配そうな表情で頬に触れてくる。そのままするりと腰に手を滑らせベッドへ引き寄せ座らせてくれた。隣にマルコも座りギシリと音が鳴る。
「起こしちゃった?」
「ちょうどやることが終わったところだ」
だから大丈夫、とゆっくり優しく頭を撫でてくれる。彼の大きく暖かいそれが気持ちよくふんわりと眠気を誘う。
「マルコ」
彼の胸に手をやるとそれが合図かのように自然と唇が触れる。そっと触れるだけのキス。それがひどく優しく寂しい。もっと彼から求められたなら喜んで応えるのに。
何度か繰り返し離れるといつも物欲しそうな目で私を見る。その表情にゾクリと背中を何かが這う。
それが伝わったのか抱きしめまた撫でられる手に高ぶった気持ちも落ち着いてウトウトしてきてしまう。そこでマルコは言うのだ、そろそろ部屋に戻って寝ろと。
「眠くなってきたか?」
「ん、少しだけ……」
本当はこのまま目を瞑ったら寝てしまうだろう。でもこの先に進みたくて小さな嘘をついた。まだ寝ないと。
「もう部屋に戻りな、寝れるだろ」
そう言って立ち上がると私の両手を持ち上げる。その動作に身を任せることもできた、いつもならそうしているから。今日はそうはせずに座ったままマルコを見上げる。
「ねえ」
「なんだい」
「キス以上も、期待していい?」
女からねだることではないと思う。でもいい加減すすみたかった。体を重ねて彼に一番近いのは自分だと、そう思いたかった。私の言葉を理解した彼は眠そうな目を大きく広げた。戸惑いを纏わせつつ口を開く。
「そんなこと言うな」
「なんで?じゃあなんでキスするの」
そう聞くと言葉に詰まった。彼にしてはめずらしく動揺しているように見える。
「私はマルコが好きだからだよ」
そう伝えるとふわりと安堵の空気に包まれた。良かった、この行為に自分ができうる言い訳をつけて、嫌なことを考えないようにしていた。しかし、こんな都合のいい夢かのような結果が待ってるとは思わなかった。
「俺もなまえが好きだよい」
「じゃあ、お願い」
お互いに好きなら問題ないでしょ、そう言う私にそれでも渋る。私は今まで不安だった分、彼で埋もれてしまいたい。
「ずっと我慢してたんだ、優しくできる自信がねえ」
「マルコの好きにしていいから」
未だに握られている両手を彼の首にまわすと勢いよく押し倒された。先程までとは違い貪るように繰り返されるキスに酸素を求める。それを許さないと言わんばかりに舌を入れられて何も考えられなくなった。