隣にいられるのなら

「なにしてんだ」

甲板でぼーっとしていたら声をかけられた。マルコとどうすれば付き合えるのか、なんて答えの出ない悩み事をしてみたり、もし付き合えたらなんて妄想をしていたなんて言えるわけがない。だから聞き返した。

「エースは?」

「今から釣りするんだ、なまえもやろうぜ」

「また盗み食いしたんでしょ」

「げえ、なんでわかるんだよ」

なんでもなにもお決まりのことじゃないか。盗み食いをして食料調達に釣りをするのも、その度に私を誘うのも。懲りないな〜と笑えば何が楽しいのか彼も大きく笑った。差し出された竿を手にすると、彼は私の腰に手をまわして軽々と持ち上げる。

「落ちるなよ」

「エースこそ」

手すりもない端っこで釣りをするのはこわいので、いつものようにエースにもたれながら座る。彼は慣れた手つきで餌をつけてくれたので適当に投げた。釣りをしている時に落ちないようにと腰を抱えてくれるのもお決まりごとだった。

ふと視線を感じてそちらに顔をやるとマルコと目が合った。今日は私は一番隊の仕事はないはずだが何かあったのだろうか。立ち上がろうとすると手をひらひらとしてきた。そのままやってろってことだろう。せっかく会えたのだから話くらいしたかった。しかしこの場を離れるのは不自然な気がしたのでやめた。

「おい!きたぞ!」

もう一度エースによりかかろうと体勢を整えると同時に立ち上がったので、ひっぱられるように私も立つしかなかった。

最近ではなかった大物が釣れ、周りもよくやったと騒ぎ出す。これならしばらく釣りをせずに過ごせるだろうと判断した私は彼の腕からするりと抜けた。竿を戻そうと倉庫へ向かう途中でマルコに会った。

「おつかれさん」

「なにもしてないけどね、今日は宴かも」

釣れたてはお刺身にしてお酒と共に食べるのがおいしいんだと、皆口を揃えて言う。だからきっと今夜は騒がしくなるだろうと思ったのだ。目の前の彼も喜ぶだろうと思ったのに妙に真面目な顔をしている。

「どうかした?」

「いや、その、なんだ」

こんなに何かを言いにくそうにしている姿を見るのは初めてかもしれない。ゆっくり待つか、急かすことは言わないでおこう。次の言葉を待っていると目線を横にズラしようやく次の言葉を放った。

「気持ちを伝える気はないのかい」

その言葉にドクリと心臓が鳴った。いつから、バレていたのだろうか。それも本人から何故伝えないのかと聞かれなければならないのか。わけがわからず嫌な汗をかくしかできない。そんな私を見て意を決したように一息ついて、今度は真っ直ぐと目を見て口を開いた。

「もし、駄目だったら俺の所に来い」

「え……?」

「かわりに、とはならないだろうけどよい」

「うん?」

「なまえのこと、大事にするから」

寂しそうな顔をして言うから、なんで彼がフラれたかのような素振りをするのかわからず困惑する。もしかして先程からなにかすれ違っているのではないだろうか。

「マルコ」

「なんだい」

「私が好きなの誰だと思って話してる……?」

「誰って、エースだろ」

そう言ってエースへ目線をやる彼に、なるほどそういうことかと納得した。確かに距離は近いし仲がいい。でもそれはエース特有のキャラであって、私の気持ちがそこにあるかと聞かれたら当然違うのだ。

「隊長だからってさ、そんなところで責任とらなくても」

全然違うんだけど、違うと言ってしまえばじゃあ誰が好きなのだと問われそうでやめた。それよりも自分の隊が失恋したらそんなことまでするのかという方が驚きである。一番隊に女性は私しかいないけど、もし同じ状況にあれば仲の良いナースにも同じことを言うのだろうか。そんな想像をして胸がざわついた。

「そんなわけ、ないだろ」

「え?」

「そんなのキリがねえ」

それは責任をとるということに対してだろうか。やはり同じ隊だから特別に気にかけてくれたのだろうか。かわいがってもらっている自覚はある。それに甘えている自分もいる。しかしここまでしてもらう謂れはないのだ。

「なまえがエースを好きでもいいんだ」

「うん」

「俺の隣にいてくれないか」

もはや否定することをしない私に懇願するような口にする彼は、まるで置いていかないでと不安がる子供のようだった。

「なまえが好きだよい」

そう言って恐る恐るというように私の手を両手で包み込んだ。きっと今の私はひどく汗をかいていると思う。だって、まさか、私のことを好きでいてくれたなんて夢にも思わない。

「まどろっこしいのは駄目だな」

眉を下げて笑う彼になにか言わなくてはと口を開くが、どこから話せばいいのかわからずパクパクとまるで金魚のように口を開閉するしかできない。

「マル、コ」

「あぁ」

そんな辛い顔をしないで。きっとあなたが思っていることとは正反対の言葉を伝えるから。だから、泣きそうな顔をしないで。

「私が好きなのは、マルコだよ」

そんなこと言われると思っていなかったかというよにひどく驚く彼が愛おしくて握られていない方の手で頬を撫でた。目の前で目を細めてゆるりと上がる口角に私も安心してそっと寄り添った。