触れられる特権

先日の夜に失態をおかした。お酒に溺れて楽しい事しか考えられなくなって調子に乗ってあろうことか好きな人に、一番隊の隊長である彼に軽口を叩いてしまったのだ。

「マルコ隊長に乗りたい!」

そう口にした時、周りの反応はどうだっただろうか、よく覚えていない。覚えているのは彼が珍しくむせて口の端からお酒をこぼしたことくらいだ。

「いいよい」

「ほんと!?」

「俺の女になるならな」

そう悪戯に笑ったのも覚えている。そう易々と触らせて、乗せてたまるかと言うことだろう。しかし彼の不死鳥になって飛んでいる姿を見たことがある人は一度は思っただろう、背に乗って共に飛んでみたいと。そのくらい彼の飛んでいる姿は美しいのだ。

そんなことも一晩寝てしまえばすっかり忘れていた。なんだってこのタイミングで思い出したのかというと偵察へ出かけていた彼が戻ってきたからである。不死鳥の姿で、空を飛び、甲板に降り立つ。まさにそれを目の当たりにしたからだ。見惚れていると顔を上げた彼と目が合った。その時の私はよほど欲にまみれた顔をしていたのだろう。

「また言うつもりか?」

「いや!あれは忘れていただいて!」

あわよくばと思っているあたり取り消すつもりはないけど、ちょっと殴ったら忘れてはくれないだろうかと思う気持ちも嘘では無い。

「忘れられるかよ」

「すみません」

楽しそうに笑う姿にきっと気分を害したわけでも怒っているわけでもなんでもないことがわかる。ただからかっているのだろう。なぜなら降りたって人の姿に戻ったというのに片手と片脚を不死鳥の姿に変えシッポをわざとらしくゆらすのだから。

「ぐっ」

それに触れてしまいたくなり無意識に伸ばされた手を慌ててもう片方の手でおさえる。ついでに漏れた声は可愛らしさなんてものはなかった。

「触りてえのか?」

「いいんですか?」

許可をまだとっていないというのに触っても良いのだと錯覚した私は再び手を伸ばした。触れる寸前で羽根と脚とシッポはスルリと消えてしまい、そこにはマルコ隊長が意地悪に笑って立っていただけだった。

「あ……」

「触ってもいいが」

行き場を失ったその手を掴まれると彼は一歩と前にでてきて距離が縮まった。

「あの時の返事がほしい」

「返事?」

はて、なんのことだろうか。なにか質問でもされただろうか。なにぶんあんなことを口にするくらいには酔っていたのでよく思い出せない。質問、質問。忘れたなら覚えているところから脳内でやり直すしかない。確か、乗りたいと言っていいと言ってもらえて、でも乗らなかった。喜んだものの彼の女になるならと言われて冗談だったのかと諦めたからだ。そのあとは意地悪だとダル絡みをしてたらふく飲んで食べて寝落ちたはずだ。

「え?」

「ん?」

もしかして、そのことを言っているのだろうか。思い出したか、と楽しそうに口角を上げて待っている姿に思わず聞いてしまった。

「本気、なんですか?」

「どう思う?」

「断る口実かと」

「じゃあ先に乗せてやるから返事くれよい」

ほら、とその場で不死鳥の姿に戻ってしまい私は困惑しながら今度こそ震える手で触れた。乗れと言わんばかりに体勢を低くしてくるものだから乗ってしまおうかと思ったが、なにか企んでいる様子を感じて思いとどまった。変な空気にのまれそうになりそれを振り払うかのように背を向ける。すると小さな舌打ちが聞こえてきたのでやめて正解だったのだと胸を撫で下ろす。

「どうしたら俺のものになるのかねえ」

そう聞こえてきた台詞に思わず振り返るともう人の姿に戻っていて寂しそうに笑うから、私の心はとっくにあなたのものですよと伝えたくて彼の手をそっと握った。