久しぶりの上陸でナース長から買い出しを頼まれた。下っ端の私はもちろん行ってきますの返事をする。彼女はそれが終わればそのまま遊んできてもいいわよと言ってくれたのだが、なにぶん量が多く一度戻ってきた。
「リストと一緒にこちらに置いておきますね、後で確認お願いします」
「ありがとう早かったのね」
「お言葉に甘えて今から飲みに行こうかと!」
元気よく返すとなまえは色気より食い気ね、とクスクス笑われた。好みもあるだろうが彼女は私達ナースの中でもとびきりの美女だ。スタイルも良く頭もキレて時に厳しくそれでいて優しい。こんなに完璧な人を私は知らない。つけくわえるとしたら女性では、となる。というのも私の中で完璧だと思う男性がいて、それはまさかのオヤジではなく一番隊隊長のマルコである。まさに理想のかたまりといったところか、この船に乗りすぐに好きになってしまった。海賊でありながら船医でもある彼とは必然と関わりも多くなるが、いかんせん下っ端の私とは会話をする機会が少ない。ナース長とよく話し込んでいるのを見かけるし、会えば挨拶もしてくれて時折なんてことない日常会話をしてもらえる。とは言ってもやはり滅多にそんなことはない、なんて思うのはワガママだろうか。
今日は着陸初日ということであらゆる隊に指示を出して彼も走り回っているところだろう。そう思いたい、でなければ他のクルー達同様夜の街にでかけてしまうという事を考えては落ち込んでしまうからだ。きっと疲れて酒場で誰かと飲み明かしてほろ酔いで帰ってくる。なんて望みの薄い期待をして適当な酒場に入って左端のカウンターに座りお酒と食事を頼んだ。
オシャレとは言えないが安く量もあり美味しそうな香りをした料理がすぐに運ばれてくる。それを口にすすめながらお酒を飲むとよりペースがはやまる気がした。彼はお酒だけを楽しむタイプみたいだが、私は飲むと食が進んでしまうため、恥ずかしくて船ではあまり飲まないようにしている。なので今日みたいに一人で街に出られる時にひっそりと飲みながら食べるようにしているのだ。
それなのに。
「うまそうに食うなあ」
「マルコ、隊長……なんで」
「たまたま入ったらなまえの姿が見えてな、邪魔だったかい?」
「まさか!そんなことないです!」
隣にいることに声をかけられるまで気が付かなかった。それほどに夢中で食べていたことに気がつき顔が赤くなる。邪魔、ではないが恥ずかしくて仕方がない。変な食べ方をしていなかっただろうか、食べている顔はぶさいくではなかっただろうか。そんなことを思い今度は顔が青ざめる気がした。
「いつから、いらしたんですか?」
「ちょうど注文した時くらいか」
めちゃくちゃ初めからいるじゃないか。なぜもっとはやく声をかけてくれない、いや、なんで気が付かないんだ私。言い訳をするとしたら一仕事終えてからの飲食が楽しみで、おやつもとらずお腹をすかせてきたことだ。目の前に集中しすぎていた。
「あまりにもうまそうに食うもんで俺も同じもの頼んだよい」
そう言うのと同時くらいにテーブルにコトリと音をたてて置かれたのに対し、律儀にいただきますと手を合わせた。
「その作法」
「イゾウがよくやってるやつだ」
「そうですよね」
「長年一緒にいるとうつっちまうもんだなぁ」
ふ、と優しい笑みを浮かべながら食べる姿に羨ましいと思ってしまった。誰かにとっての日常が、癖がうつるってすごいことだと思う。とても深い仲なのだと感じさせる。彼の中に私も存在できたらいいのに、なんて思う。
幸せそうに食べる姿を見ていたら、こちらを見て首を傾げた。その口元に器用にお米を一粒つけているものだから、右下の頬をトントンとたたいてジェスチャーで伝える。すると重たそうな瞼を持ち上げて、ゆっくり近づき今しがた指を置いたところにほんの少しカサついた唇を落とした。
「……え!?」
「違ったか?」
クツクツと喉を鳴らし笑う彼はそのままペロリとお米をさらった。その様子を見てわざとだと確信する。意味をわかってて間違えたフリをしたのだ。
「からかわないでくださいよ」
抗議するように言うと今度はぶあつい指でスルリと頬を撫でられる。好きな人にそんなことをされてゾクッとこない方がおかしい。ああ、この人はこうやって色んな人をその気にさせてきたのだなと、まんまとやられている自分にちょっぴり切なくなった。
「まさか、チャンスだと思ったらとまらなかったよい」
「チャンス?」
せっかくの上陸だ、女性と遊びたいのだろうか。しかし彼ならば放っといても勝手にやってくるだろう。それなのにわざわざナースの中では新人の私で遊ばなくてもと憎らしく、それでいてどこか憎めない気持ちになる。
「惚れた女と二人きりになれて、そんなかわいいことされたら我慢できねえだろい」
「惚れた、女」
「……復唱すんな」
信じられなくて聞き間違えだったかと口にするが、繰り返すなと顔を背けられた。つまり、彼は確かにそう言ったのだ。横をむいたものだから、ほんのり耳が赤くなっているのが見えて本心なんだというのがわかる。こんなことがあっていいのだろうか、なんて返事をしようか。想像もしていなかった状況に、早まる心臓に頭がついてこない。私の気持ちを伝えたら彼はどんな反応をしてくれるだろうか。