私達は別に付き合っているわけではない、ただの隊長と部下という関係だ。だから、上陸で彼がその土地の女性となにがあっても私には関係がない。わかっている、そんなの、好きになる前から嫌という程わかっていることだ。ただこの時の私は飲みすぎていたんだと思う、とお酒のせいにしてみる。
「マルコはいつも島についても忙しそうだよね」
「ああ、でも今回は休みをとったよい」
「いつぶり?」
「わからねえ」
ハハッと笑う彼はどことなく浮かれているように見える。こんな会話を繰り広げているとサッチがわってはいってきた。
「お、じゃあ久しぶりに一緒に行こうぜ」
「お前はいつもそれだな」
「あーでもマルコいると良い女とられるな」
久しぶりにということは以前も一緒に行ったことがわかるし、いい女性と寝たということもわかってしまう。苦笑して返しているのは私が隣にいるからだろう。行く、と答えなかったのをいいことに私はサッチに反発した。
「マルコは行かない!」
「はあ?それはかわいそうだろ」
「かわいそうじゃない」
「なまえは男ってもんをわかってねえな」
ヤレヤレこれだからおこちゃまは、という台詞にスイッチが入ってしまったんだと思う。マルコの腕を掴み揺さぶって絡んでしまったのだ。
「ねえ、行かないよね!?」
「飲みすぎだよい」
ホレ、と手渡されたのはただの水で彼までもが私を馬鹿にするのかと行き場のない怒りに涙がでそうになったが意地でも泣くものかと堪えた。
「なんで行かないって言ってくれないの!」
「なまえはマルコのなんなのよ」
「なにって」
「恋人でもあるまい束縛してやんなよ」
「そもそもサッチが悪いんじゃん!」
「なんで俺!?」
「私がいるのにそんな話してさ!」
立ち上がって彼に近づこうとしたところマルコに腕を引っ張られ静止させられる。振り返ると眉間に皺を寄せていた。
「落ち着け」
「おちついてる!」
あとから冷静になれば今の私は感情的である、以外にないというのに、不思議なことに自分は冷静だと思い込んでいた。
「行くぞ」
はあ、と盛大にため息をつき私と自身のグラスをサッチに預けた。そしてそのまま私の腕を引いて歩き出す。それに対して素直についていくしかなくて、ひんやりとした廊下を歩くと少しずつ冷静さを取り戻す。やってしまった、お酒は弱くはないが強くもない。けどこんな酔った勢いでなにかをやらかすなんてことしたことなかったのに。自然とすすめる足取りも遅くなっていく。ポソポソと歩き出した私をチラリと見るともう一度ため息をついたのがわかる。
マルコの部屋につくと扉を開け、いつもなら座れとひいてくれる椅子に触れることなく向き合った。
「落ち着いたか」
「うん……」
「なにをくだらないことでムキになってんだよい」
くだらなくなんてない、なんて言ったら彼を余計に困らせてしまうだろう。それをわかっているが嘘をつくのも嫌で返事ができない。
「なにか、言うことあるだろ」
「……ごめんなさい」
「それはサッチに言え」
「マルコにも」
だって、楽しく呑んでたはずなのに私のせいで中断して窘めさせているのだから。巻き込んでしまって申し訳ない。
「言わなきゃいけねえのは他にもあるだろ」
「なんのこと?」
「さっきの、なんであんなに嫌がった」
鋭い目つきで言われて、ゴクリと喉が鳴る。これは、もう言い逃れはできない。バレてしまったのだ。いや、当たり前か、あれほど馬鹿正直に嫉妬してしまったのだから。腹を括り絞り出すように口にした。
「マルコが、好き、だから……」
泣かないようにしているせいでスラスラとは言えない、口にするつもりのなかった告白。しかしそれを聞いた彼は満足気に笑った。そして私の腰に手を伸ばし彼の胸元にスッポリと手繰り寄せた。
「かわいいねい」
温かくカサカサとしている手のひらを頬に滑らせ無骨な指で唇をなぞった。近づいてくる顔に目を閉じる。何度も繰り返しているうちに息をはずませながら彼の唇を探してしまう自分がいた。それに気がついた彼はキスを止め私の腕をひっぱり乱暴にベッドへ投げた。
「マルコ?」
声をかけても返事はなくがっつくように首や胸元に吸い付く。破れるのでは、と心配になるくらい雑に服を脱がされ床に放り投げられた。なにが彼の逆鱗に触れたというのだろうか、彼が彼でないような錯覚に恐怖を覚える。
「泣けよ」
「え?」
今、彼はなんと言ったのだ。自分の耳を疑い落としていた視線をあげるとそこには今までにないくらい意地悪に弧を描き笑っているマルコがいた。
「泣けば許してやるから泣いてみろ」
そう言われてしまうと不思議なことに涙は引っ込んでしまうわけで、さっきまで泣きそうだったのが嘘みたいだ。状況をうまく飲み込めずポカンとしていると彼は私の太ももに手を這わせた。
「泣かねえならお仕置だ」
ニヤリと不敵に笑えばわけもわからず快楽の底に突き落とされ、意に反した涙がこぼれた。