初恋そして求愛

「なまえ」

「マルコ隊長!帰られていたんですね」

「さっきな」

「おつかれさまです」

夜勤終わり、日を浴びようと甲板に出ると同時に廊下の奥から声をかけられたので小走りで近寄ると安心したように笑うマルコがいた。彼は偵察から帰ると報告をしてすぐ会いに来てくれ、そして必ずお土産をくれる。それはいつも私の好みのお菓子や雑貨なので、センスが良いなあとできる男を感じさせた。

「次の街は漁業が盛んで真珠が名産品らしいよい」

「え、それははやく降りてみたいです」

「なにか迷ったんだがネックレスもイヤリングもブレスレットもかんざしも……全部あげたことあるだろい?」

「はい、どれも大事に……あ、ネックレスとイヤリングは今つけてます」

おろしていた髪で隠れていたであろうイヤリングを見せようとしたら、大きな手が伸びて私の髪を優しくかきあげる。

「あぁ、やっぱり似合うねい」

「頂いたもの全部お気に入りです」

「今回も気に入ってもらえるといいが」

「またくださるんですか?」

あるだろうなと思っていたし先程の会話ですでに用意しているのはわかってはいたが、もらう気満々というのも気が引けて気づいていないフリをした。何故かあげる側である彼が嬉しそうな顔をしてポケットに手を入れなにかを探る。

「これなんだ」

彼の手のひらに乗せられたのは少し大ぶりの貝殻ケースの中のクッションにちょこんと真珠が乗ったものだ。

「わ、かわいい」

もっとよく見たくて無意識に近づき彼の手に自分の手を重ねて覗き込む。

「置物なんだが、気に入ってくれたかい?」

「はい、とても!」

それを受け取ると目を細めて「よかった」と微笑み私の頭を撫でると仕事に戻ると言って背を向けた。私はなくさないようにこわさないように慎重になりながら自室へ戻って机の上に飾った。

「綺麗だな」

そういえば仕事仲間である他のナース達は一体どんな物をもらっているのだろうか。同じ物か、人によってかえているのか。ふとそんな疑問が浮かんだ。今までは好きな人からの贈り物というだけで手放しに喜んでいたが、みんなもあんな風にもらっているのだろうか。少しモヤついたものが心の中に現れる。気になりだしたらとまらなくて医務室へと向かった。

「おつかれさまです」

「あんたこの後は非番じゃなかった?」

「マルコ隊長が今帰ってきたの」

「お出かけできそうって言ってた?」

ナース達は大のお買い物好きで目を輝かせて聞いてきた。みんなも手を止めて私達の話に集中している。

「たぶん、真珠が特産だって話してたし」

「真珠!?きっとアクセサリーたくさんあるわよね」

「ということは海鮮料理も期待ができる」

「サッチ隊長のも好きだけど島のご飯はまた格別なのよね」

矢継ぎ早とナース達が会話を盛り上げてくる。この様子だとまだ彼とは会っていないのだろう。

「ねえ、みんなはいつもマルコ隊長にどんなお土産をもらってるの?」

「お土産?」

「ほら、偵察から帰ってきた時にくれるじゃない」

「もらったことなんてないわよ」

何を言っているのだ、とでも言わんばかりのポカンとした顔で見てくる。もらったことが、ない。ということは私だけに買ってきてくれているということだ。てっきり船長につきっきりな私達に少しでも楽しみをくれているのだと思っていた。しかしそうではないというのがわかるとあの優しい微笑みに、自分にだけ買ってきてくれることに、勘違いしてしまいそうになる。顔が緩む私にみんなはニヤニヤしだして「ふうん、そういうこと」「あんたもやるわね」と言い出したので逃げるように医務室を出た。

熱くなった顔を冷ましたくて食堂へ向かう。冷たいお水でもいただこうと思い扉を開けると話題になっていたマルコがいた。

「なまえか、どうした?」

「お水をいただきたくて」

そういうと冷蔵庫の近くにいた彼がコップに注いで渡してくれた。彼はお酒を一口煽るとふうと息を吐く。

「疲れましたか」

「いや、なまえに会って疲れも吹っ飛んだよい」

またそうやって甘い言葉をくれる。これは期待をしてもいいのだろうか。この先の甘い展開を想像して口を開いた。

「あの、マルコ隊長」

「なんだい」

「いつもお土産をくれるのは何故ですか?」

そう問うと困惑したように眉を下げコップをシンクに置いた。

「迷惑、だったかい?」

「いえ!嬉しいです!ただ私だけっていうの知らなくて、なんでかなと……」

そう言うと手を頭の後ろにやり、あーとかそうかとかブツブツ呟き出した。回りくどいことをしないで自分から告白でもした方が良かっただろうか。でも空振りで勘違いでしたってなったら二度と顔向けできない気がする。少々気まづくなってしま俯くともう一度息をつく音が聞こえた。

「知らねえんだ」

「なに、を?」

「これしか、口説き方がわからねえ」

そうはにかむ姿は胸がキュンとしめつけられる。しかし彼の瞳はどこか寂しげだった。そんなことをしなくても、とうの昔に私はあなたに夢中だというのに。贈り物も嬉しいけれども、一番はもちろん彼の隣にいられることだ。なにから伝えようか、そう考えながら一番伝えなければならないことを口にした。

「私はマルコ隊長をお慕いしております」

だから、私を見て、触れて、好きだと言って、抱きしめて。彼の頬をつつみこむように手をあてる。おずおずと彼の分厚く暖かい手を重ねてきた。一緒にゆっくりこの恋を育てよう。