あなたのものがほしい

恋人になれるなんて、夢見れるほど子供じゃない。だからせめて身近に彼を感じたくて、宴ではなるべく近くにいるようにしてるし、挨拶だって笑顔で元気いっぱいにしてるつもりだ。
少しは認識してもらえるようになったと思っている。それまでは顔を見れただけでも満足。挨拶ができて満足。返事がもらえて満足。
だったのに。
名前を呼ばれたい、会話がしたい、一緒に飲みたいと欲は尽きないものだ。得意でないお酒も彼の前だと飲めるふりをしていつもはしないおかわりなんかしてみたりして。
つまり何が言いたいかって、今、私は、彼をもっと身近に感じたいのだ。とは言ってもペアでなにかを持つ仲でもなければ香水を借りれるわけでもない。こっそり手に入れた手配書だけでは満足できなくなってしまった。

そんな時にチャンスはやってきた。

「あれ、マルコ隊長それどうしたんですか?」

「ん?」

それ、と指さしたのは彼が手にしているサッシュである。腰にはちゃんと巻いているのに何故手にもしているのだろう、という単純な疑問だった。

「ああ、ボロボロになってきたから雑巾にでもしてもらおうと」

そう言うと食堂の方を指さした。なぜ食堂なのかという疑問が顔にでていたらしく説明してくれた。

「厨房は汚れやすいからな、いらない布があればまわすようにしてるんだ」

「そうなんですね」

つまりそれはいらない物で私がもらっても良いんじゃないか。マルコ隊長の一番使用頻度の高い身につける物を自然と手に入れられるのでは、と思いつく。

「私が使ってもいいですか?」

雑巾になる物を探してたんですよ、とそれっぽく後付けの理由を足した。

「ほらよ」

「わ、ありがとうございます!」

少し間があったものの雑に放り投げられたそれを慌てて受けとる。ぎゅっと握りしめる手に力が入ったのは内緒だ。無事手に入れることができてニヤける口角を必死で下げようとするが中々難しい。下心がバレる前に退散しようとしたところ引き止められる。

「ところで」

「はい?」

「ヘアピンたくさん持ってたよな」

いきなりなんの質問だろうか。確かにかわいいと思ったら買ってしまう癖がある。今日も青いストーンのついた、私にしてはシンプルなものをつけている。大ぶりでかわいいのが好きなのだが、これはマルコ隊長の色のイメージがあってお気に入りの一つだ。

「そうですね、人より持ってるかも」

質問の意図がわからず困惑していると彼もまた困った表情をした。

「最近島に寄れてねえだろ?」

「はい」

そういえば最後に島についたのはいつだっけ。次の島へもまだまだ日にちはあると航海士が話していたような気がする。

「書類の仕事する時にな、前髪が目にかかるんだよい」

「あ〜前髪伸びると邪魔になりますよね」

自分で切るとガタガタになるし、わかると何度も頷いた。そういう時はそれこそヘアピンでとめたりターバンでおさえたり……あれ、もしかして。何が言いたいのか気がついたものの、いやそんなことないよねと自分に言い聞かせる。

「なんでもいいそれやったんだ、くれないか?」

それと指さした先はで、その言葉にやはりそういうことなのかと衝撃を受ける。だって、マルコ隊長が前髪をとめるなんて想像ができない。でもきっと書類仕事の時に暗い手元な上に前髪が邪魔をするとなったらそうもしたくなるだろう。私ならそうしている。

「あの、男性の方がつけられるようなやつこれしかないんですが……」

今つけているやつを外して服で軽く拭いてみる。未使用品がなくてすみませんと一言付け加えた。

「なまえが良ければいいかい?」

良いかと聞きながらも手のひらを差し出されるあたり拒否権ないような……でも私も雑巾とは言え彼の私物を頂いてるんだしと、もう一度拭きながらそっとのせる。彼は指でつまみ上げじっくりと見た後に綺麗だなと小さな声で言った。

「もし、なにか良さげなのあったら買っておきますね!」

「いや、いいよい。俺はこれがいいんだ」

そう嬉しそうに笑って横髪にさした。そのまま食堂へ歩いて行ってしまいサッチのからかう声が聞こえてきた。

「なあにかわいいのつけちゃってんのー!?どうしたの!?誰の!?え!?そういうことなの!?」

「うるせえなあ、なんだっていいだろい」

聞こえてくる二人の会話がどんどん遠くなっていく。あれは、そんなに彼の好みだったのだろうか。彼の表情を思い出して顔があつくなる。きっと、私も彼のサッシュを手にした時、ああいう顔をしていんだろうと思うから。ちょっと期待しちゃうじゃないか。もしかして、本当は、私と同じ理由なんじゃないかって。だって、前髪が邪魔って話してたのになんで横髪につけるの。なんでこれがいいなんて言ったの。ねえ、期待させないでよ。