答え合わせはあした

「上陸だー!」

双眼鏡を持って周りの確認をしていた航海士が叫んだ。周りからは歓喜の声が聞こえてくる。この様子だと目視できる限りでは海軍も海賊もいないのだろう。久しぶりの島、どんなお店があるのだろうか。なにもなくても歩きまわるのも楽しいだろう、中々あじわえない地面の感覚を思い出して少し楽しみになってきた。

「なあなまえ、どこ行く?」

「どうしようかな、エースはご飯食べに行くんでしょ?」

「おう!」

肉あるといいなー!と大きな声をだして船首の方へ走っていった。航海士の言葉にワラワラと集まってくるクルー。そこにマルコの姿もあった。エースの声に呆れた顔をむけている。いつも真っ先に食べに行っては逃げて、その度に彼が謝りに行くんだから大変だ。

マルコは誰かと降りるのだろうか、行くとしたら酒場か、はたまた夜の街へ繰り出すのだろうか。後者だとしたら嫌だなと胸が締め付けられた。
嫌なことを考えたくなくて、いつもかわいがってくれているサッチを探す。キョロッと見まわしてみるが姿がない。もしかしたらまだ食堂で仕事をしているのかもしれない。そちらの方へ足をむけたと共に声をかけられた。

「どこに行くか決まってないのか?」

「あ、うん」

恋焦がれている相手、マルコだ。エースに注意しに行った時にでも聞いたのだろうか。

「それならちょっとつきあってほしい所があるんだが」

いいかい?という問に行きます以外あるだろうか、否、ない。好きな人とならどこにだって行く、は言いすぎだがせっかくのお誘いだ。このチャンス逃してたまるか。

「もちろん、でもどこに?」

「バーだ」

「え、私でいいんですか?」

ついタメ口も外れてしまった。そんな私に苦笑する姿ですら好きだなんて思い見つめてしまう。

「野郎と行くような場所でもないだろ」

「そう、かもだけど……」

私なんかより美人なナースも可愛いナースもいるというのに、女だからという理由で私を選ぶのはどうなんだろうか。我ながら悲しい現実が頭の隅から離れない。

「嫌かい?」

「まさか!行く!」

ネガティブな思考になってしまうが、行かないわけがない。好きな人のお誘いで、好きな人とお酒が飲めるなんて、そんな幸せなことを断るわけがない。

食い気味で返事をすると、満面の笑みをむけてくれた。

「良かったよい、また声をかける」

「絶対だよ!」

「ああ、楽しみにしてる」

夢かもしれない、気まぐれかもしれない、たまたま近くにいたからで着いたら忘れられるかもしれない。そう思い念押をするとクツクツ笑って、楽しみにしていると言ってくれた。更に頭をポンっと軽やかに撫でられた。それだけで顔が熱くなり口角がゆるりとあがってしまう。


「っていうことがあってね、何着たらいいと思う?」

「へ〜どうせならいつも着ないような服で勝負したら?」

「うーん、大人っぽいワンピースとか?」

「そうそう、ギャップを狙うんだよ」

いつもは動きやすくかつ可愛い服を好んで着ている。普段は着ない、といえば逆のシンプルだったりクールなものだ。すると必然的に大人っぽくなるわけで、バーに行くならその方が良いかもしれないと納得した。ギャップを狙う、というのはよくわからないが、うん、いいかもしれない。

「ありがとうサッチ!そうする!」

「いいってことよ、がんばれ!」

アドバイスを元に持っている服を、こうでもないああでもないと出して組み合わせては変える。決まった時にはベッドの上は服で散らかっていた。すぐに片付けメイクをしなおして、いつも下ろしているだけの髪を巻いてアップにしてみる。このコーデは雰囲気が違って少し照れくさい。
そうこうしているうちに島についたらしい、時間が経つのはあっという間だ。ノックされて扉を開けるとマルコがいた。

「少し早いが行かねえか?」

「うん、少しお腹すいたな」

「じゃあ飯でも食って行こう」

空きっ腹でお酒を飲んで記憶なくしました、とかもったいないことをしたくなくて、咄嗟にでた言葉に追加デートがきた。ちょっと船でつまんで行けたら良かったのに、まさかご飯にまで行けるとは。嬉しくて少し浮き立ったまま部屋から足を踏み出す。
タラップの方へむかっていると視線を感じた。

「……どうしたの?」

その目線は隣にいるマルコからで、横目どころか顔が少しこっちにむいてしまうくらい見られていた。顔になにかついているだろうか、今すぐ鏡で確認したい。焦りと恥ずかしさが同時に襲う。

「そんな格好もするんだなあと思って」

「バーに行くって言ってたから、変かな?」

ワンピースの裾を少し持ち上げ聞いてみる。自分では意外といけると思ったけどセンスがあるかと問われたら頷ける自信はない。不安に思い聞いてみたもののマルコが変って言うわけがない。

「いや、よく似合ってるよい」

少し細めの目を更に細めて褒めてくれた言葉はきっと本当だろう。こんな優しい表情も好きだなあと、安心したのもあり顔が綻ぶ。
歩きながら美味しそうな香りのするお店で軽くご飯を食べて、またブラブラしながらバーを探して良さげな雰囲気をしているお店へ入った。
お酒を頼むと名産でもある食材を使ったおつまみと運ばれてきた。

「乾杯」

「おつかれさま」

同時にはなった言葉が違って間違えたことにごめんと謝ると、笑いながらなんでもいいよいと言われた。
美味しいおつまみにお酒がすすみ気分も良くなってくる。

「声かけてくれてありがとう」

「ん?なにがだ」

「今ね、すごい楽しい!幸せ!」

本当に幸せ。酔っているのもあって顔がふにゃふにゃになっているのがわかる。ヘラヘラ笑ってるように見えるんだろうな、せっかく大人っぽい格好しても中身は変わらない。そんな自分がおかしくなってクスクス笑うと酔ってるなあと笑われてそれがまたおかしく感じた。

「ありがとうはこっちだよい」

「なんでマルコ?」

「一緒に来てくれてありがとうだ」

「マルコのお誘い断る人なんていないよー!」

みんなのリーダー、みんなのお兄ちゃん、みんな頼りにしている。それにナースからも人気だし街でも声かからないことがない。本人だって人気がある自覚はあるはずだ。

「……なまえだから誘ったんだ」

「え?」

それはどういう意味なのか、そう聞きたかったのに。頬にそっと触れた手に続きの言葉がでなくて、マルコを見ると、その瞳には目をまん丸くした自分が映っていた。それほど近い距離に居心地が悪く後ろへ体を傾けると、彼の手が頬から首を通り背中へ移動した。お酒ではない、ドキドキと胸が高鳴り脈がはやくなる。息もつまる。なにもできなくなった私に、マルコの口角が上がった。


「どういう意味かは、わかるだろ?」