「お前はかわいい妹だよい」
なんてことない、日常の会話で投げられた言葉だ。そんな彼が好きな私はやっぱりという気持ちと、それでも受けるショックにその日は食事をとることができなかった。
その日からなんとなく避けるようになってしまって、今、二週間ぶりだろうか、彼の部屋で深夜に二人きりという状況になってしまった。
「なんか久しぶりだな」
「うん」
「この船も人増えたからな、会わない時は本当に会わないねい」
なんでこんなことになったかと言うと、各隊がために溜めた書類をさばき疲れた彼が夜食を取りに来た所に出くわしてしまったからだ。そういえばお前読み書きうまかったなと徹夜のお手伝いをすることになってしまった。
「マルコはさ、」
「ん?」
私のことは女として見れないの、そう聞きたいのにこわくて聞けない。あれが答えじゃないか。でもやっぱり諦めきれない自分がいて、かといってトドメをさす勇気もない。どうした、と続きを促され言うか言わないかどうしたものかと唸ることしかできない。
「その」
「おう」
「えっと」
「うん」
「私のこと、どう思ってる……?」
ああ、聞いてしまった。怖くて手が震える。ペンを握っている手に力が入り紙がくしゃりと音を鳴らした。
「かわいい妹だ」
そう、だよね。たった二週間でかわるわけないよね。もう、いいや。こうなったら諦められるように納得できるまでワガママを通そう。夜のテンションというのだろうか、ヤケクソというのか、さっきとはうってかわって変に強気になってきた。
「私はお兄ちゃんなんて思ってないよ」
「あ?」
どういうことだと目をパチクリとさせる姿がかわいいと思ってしまうくらいには毒されている。
「マルコのこと、異性として意識してる」
「……警戒心を持つのはいいことだよい」
そうじゃないことくらいわかってるくせに。大体そんなものがあったらマルコの部屋に二人きりになんてならない。
「マルコが好き」
「さっきからどうした」
「ずっと前からだよ……妹にしか見れないの?」
二度も言われたのにしつこく食い下がる。泣きそうだ。落ちそうな涙をこらえる。しばらく間があったあとハッキリと言われた。
「妹だ」
「そっか」
もうここまで言ってもかわらないのなら本当に無理なんだ。諦めるしかない。すぐには無理でも少しずつ忘れて、それで前みたいに何も無かったかのように接するんだ。降りたくはないし離れたくもないから。
「じゃないと、困る」
「そんなに迷惑だったんだ、ごめんね」
好きという気持ちがそこまで言わせてしまうなんて、もうこれは立ち直れないかもしれない。明日から顔を合わせるのが辛い。
「いや、そうじゃなくて、あー……」
頭をガシガシとかく姿がぼやけて見える。珍しく言葉を選ぶのに時間がかかっているようだ。傷つけないようにと考えてくれているのだろうが、もう何を言われてもこれ以上傷つくことはないだろう。
「なまえを女として見たら歯止めがきかないっていうか」
「……どういうこと?」
「なまえから見て俺ってどんなんだ」
「優しくて、頼りになって、暖かい人」
「俺は、嫉妬もするし束縛もするし、そんな優しいばかりじゃないよい」
「そう、なの?」
嫉妬するの?束縛もするの?あまりにも意外すぎる。無関心で放任主義なのかと思っていた。博愛主義というか、誰にでも優しいマルコしか想像がつかない。
「だから、やめとけ」
驚きのあまり止まった涙に表情がハッキリ見えるようになった。そこはやめとけと言いながらやめないでほしいと言いたそうな顔をしたマルコがいた。これは、期待してもいいのだろうか。
「……いいよ」
「やめろ」
「マルコの好きにしていいよ」
「意味、わかってんのか」
例え泣かされても、それでもいい。そばにいられるなら。隣に立ってもいいのなら、どうなったってかまわない。
「私のことマルコでめちゃくちゃにしてよ」
「すごい口説き文句だな、後悔するよい」
「しないよ、絶対に」
「今までどれだけ我慢してきたと思ってる」
するとしたらここで彼から距離を取ってしまうことだ。彼が内心を打ち明けてくれたのだ。きっと勇気がいったと思う。私はそれに全力で応えたいのだ。恐る恐る、そんな言葉が似合うくらいそっと触れてくる彼の手に自分の手を重ね閉じられていく瞼をそっと見つめた。