ほんとうにしてしまえばいい

上陸をすれば待ってましたと言わんばかりに夜の街へ消えていく男性陣。片想いしている相手、マルコだってきっとそうだ。そう思っていたのにある日からパタリと船から降りなくなった。いや、正確には降りているけど飲んですぐ戻ってくるし朝帰りがなくなったのだ。はじめは疲れでもたまっているのだろうと思っていたがあまりにも長い。かれこれ半年はそんな生活をしている気がする。

「ねえ、マルコ」

「ん?」

それからもう一つの変化といえば彼の態度。やたらと優しい。今だって休憩だと疲れた様子なのに声をかけたら微笑んでくれる。

「次の島についたら何するの?」

「仕事くらいだな、あとは飲んだりか?」

いつもと変わらないじゃないか。一体どうしたというのだろうか。いや、全然行ってほしくないしできたらこのままでいてほしい。だって好きな人が一夜限りとはいえ他の女性を抱くなんて考えたくもない。しかしこんな事情を突っ込んで聞いていいものだろうか。考え込む私の頬をそっと触れてきた。

「なんだ、一緒に街でもまわるか?」

「……いいの?」

「当たり前だよい」

あたりまえなんだ。仕事で忙しいのではないだろうか。これはデートと言ってもいいのでは、何を着て行こうか思考がすっかりかわってしまう。自然と上がる口角にマルコは一層嬉しそうな表情へかわった。

「楽しみかい?」

「うん、嬉しい」

「俺も嬉しいよい」

「そうなの?」

「恋人とデートなんだ、嬉しいに決まってる」

さも当然といったような言い方をする。恋人と?デートって誰と誰がだ。話の流れで私のことを言っているのはわかるがさっぱり意味がわからない。

「恋人?」

そう問うと頬から腕をすべり手のひらに到達すると所謂恋人繋ぎをしてそのまま手の甲に唇を落としてきた。

「いつ、からだっけ」

あまりにもストレートすぎたのか、何言ってるんだという表情をむけられる。

「どうしたんだ」

「あー、記念日待ち遠しいなあって」

「そうだな、半年記念日でもするか」

半年記念日。つまり付き合って半年たつというのか。彼が朝帰りしなくなった時期とやたらと優しくなった時期と合う。つまり、本当に付き合っていると認識されていたのか。しかし一体なにがどうなってそうなったというのだ。

「楽しみにしてるね」

それだけ伝えると足早に食堂へ向かった。今ならサッチが夕飯の準備をしているだろう。そう思い扉を開くとやはりそこにはサッチの姿があった。

「サッチ!サッチ!」

「なんだ騒がしいな」

「ねえ、私マルコと付き合ってるらしいんだけど」

「あ?らしいってなんだ、付き合ってるだろ」

「なんで!?いつから!?どうして!?」

「なんでって……俺はマルコからそう聞いてるぞ」

サッチまでもが何言ってるんだと不思議そうな顔をしてくる。

「私、知らない」

「は?」

「付き合ってるの知らなかった」

「……酔っ払って覚えてないとか?」

その問にそれはないと言いきれないのが憎い。だって飲みすぎた次の日には何かやらかしてないだろうかと不安になるくらい記憶がない日が多々あった。

「でもでも、ほら!キスとかしたことないよ!?」

「あー、なるほど、うんうん」

「え、なに?」

そういうことかあと大きく頷く彼についていけない。

「ねえ、なに?どういうことなの?」

「まあ、諦めろよ相手が悪かったわ」

それだけ言うと作業に戻ってしまいこれ以上はなにも話しませんという壁をつくられてしまった。さっぱりわからない私はそれとなくマルコに探りをいれようかと考え、いやすぐにバレてしまうなと諦める。かといってこのまま恋人という設定で接していいものか、あれこれ悩んでいる私を見てほくそ笑んでいるマルコの姿に気が付かなかった。