「好きです」
目の前にいる恋焦がれた相手が自分に好きだと言った。よくサッチと一緒にいるもんだからそういうことだと思って何度も諦めようとしたのに。差し出されたチャンスに乗っかった。
「……俺も、好きだよい」
本当に俺が好きなのか。本当に俺でいいのか。その疑問をぶつけることができないまま返事をすると、ホッとしたように笑った。だから、これからは一緒にいる時間が増えるとそう思っていたのに現実はそううまくはいかない。
「サッチ〜」
相変わらず何かあれば俺じゃなくあいつの元へ行く。楽しそうな時も辛そうな時も、俺じゃない、サッチの所へ行くんだ。俺はそんなに頼りないのか。それとも本命はあいつで自分は二番手なのでは、そんな疑問が浮かんではたまっていく。
それだけでも嫌だとそれすら言えず、嫉妬で気が狂いそうだというのに、なんで、サッチの部屋から出てくるんだ。しかもこんな早朝に。もしかして一晩共に過ごしたのか?男女が二人きりでいたとなれば何をしていたのかなんて想像が容易い。
それならはじめから手に入れられなかった方がマシだった。付き合っているはずなのに付き合う前より遠く感じるなんて、それを確かめる勇気もないくらい好きで好きで仕方なくて聞けない意気地無しだとは思わなかった。
年齢を重ねる度にそれなりの経験はあるわけで、でもこんなもどかしい思いも怖いと思う自分も嫉妬で頭がいっぱいになることも全部全部初めてだった。
「なあ」
「マルコ!どうしたの?」
後ろから呼びかけると嬉しそうな顔をしてこちらに小走りで駆け寄ってくる。かわいい。でもこの姿を知ってるのは自分だけではない。むしろ俺が知らない顔をたくさん知ってるんだ、あいつは。
「もう、終わりにしよう」
じゃないと手足を縛って部屋に閉じ込めて誰にも見つからないようにして服を力一杯に破り俺という存在を知らしめてめちゃくちゃにしてしまいそうだ。
手離をしたくない。隣にいていいのは俺であってほしい。でも、それが叶わないのは付き合ってから嫌という程あじわったじゃないか。それならいっそ赤の他人より遠くに行ってくれないと取り返しのつかないことをしてしまう。お前も本当に好きな人と一緒になりたいだろう。何を我慢して俺を選んだがわからないが、きっとあいつの方がお前のことをわかってやれるし大事にしてくれるだろう。そう思ったのに、反応は予想外のものだった。まさか傷ついた顔をするとは思いにもよらなかった。
「な、んで?」
「その方がいい」
「私、なんかした……?」
自覚なしか、よっぽど俺は眼中にないらしい。それもそうか、付き合って半年は経つというのにキスすら数える程度しかしていない。その先なんてこないままここまできてしまった。先に進みたいと思ってはいても、好かれている自信なんて一切なくて、そんな状態で事に及んでも虚しくなるだけだ。一緒に寝たことはあったがただ寝ただけで、手を出したくなるのを抑えるのが辛くてその一度きりだった。相手からも求められないから、やはりという気持ちが大きくなるだけで、手を出そうなんて到底行動にはうつせなかった。
「次はちゃんと好きな奴と一緒になりな」
これが最後にできる精一杯の優しさだ。醜い自分を知らないままでいてほしい。強がりだった。本当は手離したくない。でも、離れてしまいたい。
「私は、マルコが好きなんだよ……」
「違うだろ」
「なんでそんなこと言うの?」
「なまえが一番わかってるはずだ」
なんでそんなことを言う、こっちの台詞だ。そうやってお前は俺をその気にさせるんだ。じゃあな、話は終わりだと背を向けるとしばらくその場から動く気配はしなかった。それに気が付かないフリをして部屋に戻る。
しばらくしてドアが勢いよく開いた。
「おい!マルコ!」
「ノックしろよい」
「そんなことよりどういうことだよ!」
「なんだ、告白でもされたか?」
答えるな、聞きたくない。でも、知りたい。現実を突きつけてくれ、諦めるために。矛盾する気持ちで冗談めかして問うてみるが、目の前にいるこいつは目をつりあげて大声をだした。
「そんなわけないだろ!!!」
「じゃあなんだい」
「お前に振られたって泣いてる」
「なぐさめてやれよ、いつもみたいに」
「なあ、なんか勘違いしてないか?」
勘違いもなにもないだろう、乾いた笑いしかでない。先程まで怒りを露わにしていたくせに、今度は眉をこれでもかってくらいに下げているこいつにため息がでた。お前らの恋愛に巻き込むな。俺を当て馬にするな。そう言ってしまいたい。
「なまえが好きなのはお前だぞ」
「それならなんでいつも俺よりお前の所に行って朝帰りまでするんだろうな」
こいつはこんなに鈍感だっただろうか。ついカッとしてしまいずっと秘めていたことを思わず口にしてしまう。ああ、なんて格好悪い。誰にも言うつもりなんてなかったのに。自分で思っている以上に堪えているらしい。
「……俺が言って良いのかわからねえけど、完全に間違ってる」
「事実だろ」
「頼むから、ちゃんと話をしてくれよ」
あんなあいつを見てられない、そう続けるこいつにもういい加減にしてほしくて、わかったから連れてこいとだけ言うと何も言わずに部屋から出て行った。しばらくすると小さく扉を叩く音がする。
「あいてる」
「……おじゃまします」
現れたのはもちろんさっき別れ話をしていたこいつで、泣き腫らした顔をしていた。それでもまだ涙がにじんでいて、指でぬぐいたくなる。抱きしめて慰められたならどれだけいいか。でもそれは自分の役割ではないのだ。
「サッチに、行けって言われて」
「知ってる」
またあいつの名前。サッチの言うことならなんでも聞くというのか。
「ごめんなさい、私、悪いところなおすから、お願い、別れるなんて言わないで」
グズグズと泣きながら懇願するように話す姿に少し頭を抱えたくなる。
「なんでそんなこと言うんだよい」
「ずっと、ずっと好きだったの本当に好きなの」
「……好きなのはサッチじゃないのか」
埒が明かないと、真相をつつくと両目を大きく開いてひどく動揺しだした。ほらみろ、それが答えだろ。バレないとでも思ってたのか、甘く見られたものだ。
「なんでサッチ?」
「この前、朝帰りしてただろ」
もうあいつにも言ってしまったからこいつに伝わるのも時間の問題だ。それに言ってしまった方が話もはやいだろう。こういうのを開き直りと言うのだろうか。
「あれは、話してたら時間たってだけで」
「その話を信じられると思うか?俺の部屋からナースが早朝に出てきて話してただけだと言ってもそうですかで終わるか?」
「嫌だ……」
「それに普段からあいつとばかりいるだろ」
「それは」
「どう見てもなまえが好きなのは俺じゃなくてサッチだよい」
「違う、違うの!サッチには相談してただけなの」
両手を胸の前で握りしめ体をふるわせてるこいつに、ここまで話すつもりはなかった思いとここまできてもまだ抱きしめたいと思う自分がいて嫌になる。
「どのみち俺には話せない頼りにならないってことだろ」
「……マルコが」
「なんだよい」
「キス、だけで、それもあまりしてくれなくて、私、女として見られてないのかなって不安になって、それをサッチに聞いてもらってました……」
言いづらそうにそれでも言葉を選びながら聞かされた内容に言葉がでない。それはお前があいつを好きだと思ってたからであって、なんだ、どういうことだ。そんな疑問が伝わったのか簡潔に説明をしてくる。
「付き合う前は、マルコのこと好きってことがバレて、その、どういう人がタイプか教えてもらったり、色々話を聞いてもらってました」
顔を赤くして早口で話す姿に、何か言わなくてはと口が開いては閉じる。何を言えばいいのだろうか。中々返事をできずにいると、大きく息を吸う音が聞こえた。
「もう、誰にも相談しないから、やり直してもらえませんか」
別れ話に内容が戻ったせいか、また泣きそうになっている。お前に触れても、いいのだろうか。その言葉を、信じていいのだろうか。手を伸ばし、とめる。
「これからは、俺に聞いてくれるか」
「全部、マルコに話すから、お願いします」
じっと俺の言葉を待っている姿に、外れない目線に、ゆるゆると頬に触れた。ピクリと動いたのがスイッチになったのだろうか、思わず腰に手をやり強引に引き寄せる。
「今回のことでわかったと思うが俺は嫉妬深いよい」
「私が悪かったの、ごめんなさい」
「本当に俺でいいのか」
「マルコじゃなきゃ、嫌だよ」
今までのが誤解で、ずっと両想いだったというのなら話はかわる。今すぐ自分のものにしたい。俺のものだと安心したい。誰にもさわらせたくない。その泣き顔をもっとグチャグチャにしてやりたい。知らずと呼吸が早くなり荒々しく抱きしめ唇を寄せると両手が首にまわった。