「東京タワー」
「…ねぇ財前、それって次はわ?あ?」
「わ、やろ。普通」
「わ…わなげ!」
「…元気玉」
「まー、まー…」
雨のせいで部活が出来ない。なので今日はオサムちゃんとユウジ主催によるお笑いライブが始まろうとしていたが、私も財前も興味はないので、こっそり抜け出して部室でボケーっとしている。いや、正しくはボケーっとしてるのは私だけ。財前は何やらブログ執筆中。
手持ち無沙汰の私が突如始めたしりとり。なんだかんだ財前も付き合ってくれてダラダラと続いている。見かけによらずこういうところが優しいなと改めて思う。まぁ、ただのお遊びだからしりとりに勝ったところで何もないんだけどね。
「前から思ってたんだけど、財前って私のどこが好きなの?」
「…それ名詞ちゃうで」
お前しりとりのルール知っとるか?と冷たい視線をこちらに向ける。
失礼な、私だってルールくらい知ってるよ。でも気になったからこの際聞いてみようと思ったんだよ。普段ツンツンしてて好きとか全然言ってくれないのに勢いの告白をOKしてくれたし、恋人なのでそれなりのことはしてるけど、ベタベタではないし…本当に財前は私のこと好きでいるんだろうかって気になるでしょ。だって好きな人なんだし。
「特別ルール!」
財前はめんどくさそうな顔でスマホをポケットにしまって、一度天井を見たかと思うとポツリと呟いた。
「…能天気なとこ」
「こ?こー…コアラ」
「お前は戻るんかい。…ら、ライバル多いって自覚してへんの腹立つんやけど」
「それバカにしてない?!…ど、読書の秋!」
「気付いてないやろうけど、結構可愛い思うとるで」
「…デジカメ」
「めっちゃ表情コロコロ変わるし、なんでも素直に信じるお人好しなとこも愛らしゅうて目ぇ離せんわ」
「ワニ…」
「にこって嬉しそうに笑うのなんやねん、可愛すぎか」
「…か、カスタネット」
「特に、普段うるさいのに抱きしめたら急に大人しくなるんズルいやろ。キュン死や」
「……や、野菜ジュース…」
「好きやで、お前のこと」
今まで言われた事のないストレートに甘い言葉。
自分で振った話題なのに恥ずかしくなってつい視線が泳ぐ。こんなことならしりとり始めるんじゃなかった。財前は悪い企みを考えるようにニヤッと笑う。
「次、お前の番やで。と」
「…と、ときめきました…」
次から次へと言われた財前の言葉に私の羞恥心が耐えきれなくなって、顔は真っ赤になるし財前のことを直視できない。
な、なんであんな事聞いたんだろう。そうだよね、私達付き合ってるんだもんね、うん。好きだと言われて嬉しいような墓穴を掘ったような、とにかく恥ずかしい。財前にもそれがバレているのか、いつもより顔が緩い気がする。
「確かに今まであんま言うとらんかったな。やけど、好きでもないヤツと付き合うわけないやん。これで分かったか?」
「…勘弁してください…キャパオーバーです…」
照れと恥ずかしさとで真っ赤になった頬を両手で覆っていたら、いつの間にか隣に来ていた財前が無理矢理手を退けさせ押さえる。視線を財前から逸らせないまま、あっという間に手を引っ張られ、財前の腕の中へ。
途端にドキドキと心臓が早くなる。財前の言った通り、抱きしめられるとどうしていいのか分からなくなる私は、口を固く閉じて黙ることしかできない。そんな様子を見てフッと軽く笑う財前。
「素直に言ったついでに言えば、ホンマはもっとこうしたいんやけど」
財前がそんな風に思っていたなんて知らなかった。
抱きしめられる感覚も、財前の体温も温もりも、私の早くなる心臓にも全然慣れないけど、私だって…嫌なわけじゃない。
「ど、どうぞ…」
「…そんなん軽々しく言うなや。アホなんちゃう?」
ぎゅっと抱きしめる力が強くなる。
「う、うるさいなぁ…。でも、財前とこんな…、全然慣れないけど…私だってしたいと思ってるもん…」
心臓が破裂するくらいドキドキしてるのに、いつもみたいに軽口を叩く事なんて出来ない。どうかこの心臓の音が財前に聞こえませんようにと願い、ぎゅっと学ランを握った。優しい手で頭をなでられて、頭の上からちょっとだけため息が聞こえた。
「…ええ加減、名前で呼んでくれへん?」
抱きしめた腕を緩めて、至近距離で真っ直ぐな瞳に射抜かれる。
その目が、好きだ。先輩とじゃれてる時は何も感じないのに、ふとした瞬間、誰にも怯まない強い意志を露わにする瞳。今もそう、何かが心臓に突き刺さる。攻撃的なのに、受け入れる視線。なのに口元は少しだけ緩やかで、たぶんこの表情は私だけが見ることのできるものだ。
「…ひ、かる」
付き合ったからと言っても急にベタベタするような関係じゃなかったせいで、今まで呼べなかった名前を呼ぶと、財前はさらに笑みを深めた。
「よぉ出来ました」
その言葉と共に今までより優しくキスをしてくれた。
「ついでにしりとり、お前の負けやで」
勝ち誇った顔を浮かべる光に、どれだけ好かれているのか説かれてしまった。