「ねぇ」
「…んー?」
「ねぇってば」
「んー?」
「…1+1は?」
「んー?」

…なんかつまんない。思ってたのと違う。
久々の湊とのデート。今日は猫カフェ行こうって。確かに誘ったのは私。
だけど。だけどさ…!!

「ねぇねぇ、湊?」
「んー?」
「私の名前はなーんだ?」
「…ルナ」

…それあんたが今撫でてる猫の名前だっつーの。
いや、分かる。分かるよ?確かに猫は可愛い。どの子も人懐っこくて撫でたら気持ちよさそうで、ときどきにゃーんなんて鳴いちゃって。可愛いから猫に八つ当たりもできなくて。だからと言って猫にメロメロな湊はいつもは絶対しない表情をしていてそれもむかつくことに可愛いから怒れなくて。結局一人でもやもや。
何やってんだか、自分。


:
:


「なんか、怒ってる?」

そう湊が聞いてきたのは、猫カフェの時でも、その後のランチの時でも、その後の後ショッピングの時でも、その後の後の後のディナーの時でもなくて。

「…え、今さら?」

もはや怒る気力もなくなった帰宅後。確かに猫には少しだけ。ほんの少ーしだけ嫉妬したけど、その後もずっと湊は優しくて、もうどうでもいいやって。そう思った矢先。
ほんとタイミング読むのある意味上手すぎない?

「え、今さら…って…?いつから?」

せっかくもういいやって思ってたのになんだかまたモヤモヤ。でもそんな自分も嫌だ。

「ん、んー…いや、いいや。もう怒ってないよ」

だから無理やり押し込めた。自分の感情を。
数少ない湊と2人でいられる時間。それは大切にしたい。ありがたい事に湊がデビューしてからもうすぐ1年。仕事も日に日に増えていて会える時間はそれに比例するかのように少なくなっていた。

「本当に?」
「うん。ほんとに怒ってないから」

私もスタプロに入っていればなぁ、なんて。何回思ったことだろう。そしてその思考のまま鏡を見て、何度ため息をつくハメになっただろう。湊に似合う女性になるために、お化粧も色々試してるし服だって流行りを取り入れているし。それでもやっぱり可愛い人ってもうオーラが違うんだよね。
…あ、やばい。なんか泣きそうだ。

「名前…?」
「…へ?あ、ん?どうしたの?」
「いや…なんか…泣きそうだから」

あーもう。こういう所だ。
普段は鈍感なくせにこういう所だけすぐ気が付く。

「そんなことないよ」
「嘘だ」

…そしてこういう時に限って少し頑固。

「…スタプロの子と猫と私。誰が一番好き?」

あー何言ってんだろ自分。
…ほら湊も首傾げてんじゃん。めっちゃ怪訝な顔してんじゃん。

「…それで泣きそうになってたの…?」
「えっと…それはちょっと違う…?ような…?」

なんだか自分でもよく分からなくなってきた。そもそも猫に嫉妬してて…今日猫カフェ楽しめなくて…で…で、なんでスタプロが出てきたんだっけ…。

「えっと…うん、スタプロの子と猫と名前…誰が一番好きかってことでしょ?ん…と、上手く言える気はしないんだけど…」

なんて。1人で考えている間にも湊は湊なりに必死に私の言葉を解釈しようとしてくれて。

「スタプロの子も猫も名前も。大好きだけど…んと…スタプロと猫はlikeの好き。名前はloveの好き…って言ったら分かりやすい?」

likeとかloveとか。聞いてるこっちが恥ずかしくなるような単語をぽんぽんと並べてくる湊。…やばい。絶対今私にやけてる。さっきまで泣きそうだったのに。単純なヤツめ、自分。

「じゃあ…私猫が良かったなぁ…」
「え、なんで?」

さっきよりも怪訝な顔で私を覗き込む湊。伝わらなかったのかなって、焦っているのが瞳の奥に見え隠れして、思わず笑いそうになる。

「だって猫だったら湊のlikeもloveも独り占め出来るわけでしょ?」

…うっわ。外では絶対こんなこと言えない。黒歴史確定なセリフだ。

「あぁ、なるほど。そういうこと」

対する湊はやっと合点がいったのか小さく呟いた。

「んー。だとしたら名前が猫になっちゃうのは俺困るな」
「…へ?なんで?」

意外だ。え、これは悲しむべきことなの…か…?

「聞きたい?」
「うん」
「んー…すごく聞きたい?」
「うんうん」

とにかく理由が聞きたくて、焦らす湊に首が取れるんじゃないかと思うほど頷くと、普段はあまり表情を変えない湊が笑った気がして思わず頷くのをやめた。

「だってさ…」
「へっ!?ひゃあ!!」

そして、次の瞬間には、私は湊の腕の中でいわゆるお姫様抱っこの状態になっていた。

「ちょっ…湊…!!下ろしてよ!!」
「えー、やだ」

駄々こねる子どもみたいな言い方。可愛い。…じゃなくて!!

「なんでよ!!」
「え、だって理由聞きたいんでしょ?」
「聞きたいって言ったけど…!!」

それとこれとは別じゃない!?

「俺が名前が猫になったら困る理由はねぇ…」

小さく呟きながらずんずんと歩いていく先にあるのは寝室。
もう何も言わなくても分かる。この先何が待ってるかなんて。

「ちょ、湊…?」
「名前が猫だとこういうことできないでしょ?」

そっとベッドに下ろされると、湊が被さった。

「ねぇ、名前。にゃあって言って。にゃあって」

…結局猫も大好きじゃん。


「…にゃあ」
「…可愛い」




Love cat motion / Kasai Minato