煉獄様との顔合わせの日は伯父様が我が家にその話を持ってきてからずいぶんと経った頃だった。あまりにも何の進展もないので、顔合わせどころか文を見た時点で断られたかもしれないと期待さえしていたくらいだ。
 当日はいつもより早く起きて身支度に時間を割いた。キヨさんは若い女中で髪を結うのがとても上手く、わたしのまとまりづらい髪も慣れた手つきで素敵に結ってくれた。
「お嬢様を見たらお相手の方も照れてしまいますね」
「ええ、ええ、今日のお嬢様はとても素敵ですわ」
 二人とも大袈裟に褒めるので気恥ずかしくてわたしは口をつぐむ。下手に何か言うとそれ以上の褒め言葉がくることは経験上知っているのだ。
 支度が済んで一階におりると伯父様とお父様が待っていて、ここでも褒められるのでわたしは「早く行きましょう」と玄関へ先に進む。呼んでいたタクシーに三人で乗り込むと煉獄様のお家へと向かった。
 伯父様は本日会う御子息の名前を教えてくれた。
 煉獄杏寿郎様。
 呼びにくい名前。それが最初の印象だった。
 代々鬼狩り様のお家で、とてもえらいくらいについているらしかった。伯父様はもっとたくさん語りたいようだったけど、お父様が止めてくれた。お断りされるのだからお相手のことを詳しく知る必要はないし、そもそもわたしにはいまいちピンとこない話ばかりで興味を持てなかった。
 煉獄様のお家は立派な武家屋敷で、その歴史の長さを窺えた。伯父様とお父様のあとをついて行くと玄関で綺麗な凛とした女性に迎えられた。無表情でどきりとするけど、落ち着いて挨拶をする。おばあ様にいかなるときも挨拶は落ち着き払ってするよう厳しく言われていた。さっそく役に立ち心の中で感謝する。
 出迎えてくれた女性は奥様で、わたしたち三人を居間へと案内してくれた。居間に入るなり、あまりにも明るい髪色にわたしは目を奪われた。こ、こんな髪色初めて見た…。

「炎柱様、本日はお忙しい中お時間いただきましたこと誠に感謝申し上げます」
 伯父様の挨拶とともにわたしとお父様も深々と頭を下げる。顔を上げて自己紹介をするも炎柱様とその奥様は無表情で、このお見合いを喜んではいないことがわかった。お二人の隣に座っている御子息——杏寿郎様はこの席がどういった場かよくわかっていないのか、心ここに在らずのようだった。
 そんな微妙な雰囲気をもろともせず伯父様は煉獄家の血を繋ぐことや産屋敷様と長き付き合いのミョウジ家は信頼に値し煉獄家の繁栄のために全面的に援助することをなんだかうまいこと話していた。伯父様は貿易商を営んでいる関係か相手に不快感を与えずに話したり交渉するのが上手だった。
 炎柱様と奥様も断るつもりだったと思うけれど、伯父様の話術のせいか利害が一致すると思ったのか炎柱様は何とも歯切れの悪い態度だった。わたしと杏寿郎様に決定権はないので話すこともなく早々に飽きてしまい、わたしは部屋から見える庭を見つめていた。よく手入れがされていてお花が綺麗に咲いていた。
「杏寿郎、しずくさんにお庭を案内して差し上げて」
「はい!行こう!」
 奥様が気を遣って声をかけてくださった。杏寿郎様はこれ幸いと言うように元気よく立ち上がるとわたしの手をとって縁側まで連れて行く。そのまま彼は素早く玄関まで行くと自分とわたしの草履を持ってきて縁側の靴踏石に置いて先に庭へおり、わたしに手を差し伸べてくれた。彼の助けを借りて草履を履くと、話し合いの部屋からは見える範囲内で庭を歩く。

「今日はお時間いただきましてありがとうございました」
「ん? それはナマエも同じだろう?」
「伯父様がお願いして場を設けていただいたのです」
「そうか! でも今日は俺とナマエの大事な話なんだろう? 時間をとるとは当然だ」
 てっきり何も知らないと思っていたけど、そうではなかったらしい。でも大事と言うわりには緊張感もなく真剣味も感じられないから、彼も断ることはわかっているのかもしれない。いたもより綺麗にしてきたのが馬鹿馬鹿しくなるけれど、あと少し耐えればいいだけだと自分を納得させる。とりあえず伯父様が納得してくれたらそれでいいんだから。
 二人の共通の話題は鬼狩りのことだったのでわたしはそれについて大して知識はなかったけれど口にした。
「杏寿郎様も将来は炎柱になるのですか?」
「そうなりたいと思っている。だから鍛錬を欠かさずしてるんだ」
 そう口にする杏寿郎様は嬉しそうな気恥ずかしそうな表情をしていて、炎柱のお父様を慕っていることが瞬時にわかる。ちらりと彼の手を見ると豆だらけで本当に欠かさず鍛錬をしていることが見て取れて、自分の手との違いに驚きと尊敬の気持ちが溢れ出た。そしてそれと同時にお節介心も。
 わたしはたもとから軟膏の入った小さい容器を取り出すとたっぷりとすくって杏寿郎様の手を掴んで塗り込む。
「ミョウジ家は薬を作っているんですが、この軟膏とてもよく効くんです」
「そ、そうか。ありがとう」
「」