「え、シール? 集めてるよ!」

 昼休み。学食から教室への帰る途中のマックスの耳にそんな声が届いた。
 この声はもしや。
 勢いよく声がした方を振り向くと、同じクラスのナマエが、ベンチに座り友達と談笑しているところだった。
 
 マックスはナマエに絶賛片思い中である。可愛いのに芯があって、誰にでも分け隔てなく優しい。恋愛的なことには鈍感なのか、アプローチにはなかなか気付いてくれないが、そこもまた彼女の魅力だとマックスは思っていた。
 そんな彼女から聞こえた、シールを集めているという言葉に、マックスは仲良くなれるチャンスでは?!と心を躍らせる。
 ここ最近、シール集めがトレンドだという情報はしっかり仕入れていた。ナマエが集めているかは分からなかったが、可愛いもの好きの彼女ならもしかして……と思い、いくつかシールをコレクションしていた。
 俺のシール手帳が火を噴くときがきた……!なんて、思いながら意気揚々とナマエの元に向かう。

「ナマエちゃん、シール交換しない?」
「え……?」
「ナマエちゃんの持ってるシール、俺のここに貼ってほしくて! そんで、俺の持ってる——」
「ごめん、マックスくん……!」

 全てを言い終わる前に断られてしまった。

「あの、ごめんね……わたしもお皿欲しくて……まだ点数分集まってないからシールあげられないの……」
「お皿……?」

 ここに貼って、と自らのモニターを指さすポーズのまま固まっていたマックスに、ナマエは申し訳なさそうに「春のパンまつり」と書かれた台紙を見せた。どうやらこの紙いっぱい、30点分のシールを集めるとお皿が貰えるらしい。ナマエが取り出したその紙は三分の二ほどシールが貼られていた。

「……エッ……集めてるシールって、これのこと……?」
「? うん、そうだけど……」
「あ、はは……そっか……これね……」

 なんと、ナマエが集めていたシールは今ブームになっているような可愛らしいものではなく、市販のパンに貼られている点数が書かれたものだった。
 まさかの勘違いに恥ずかしいやら悲しいやら。
 急にごめんね……とすごすごと教室に帰っていく淋しげなマックスの背中を見て、ナマエはぽつりと呟く。

「マックスくん、そんなにパンまつりのシール欲しかったんだ……悪いことしちゃったかなあ……」

 隣で一部始終を見ていた友達は、多分そういうことじゃないと思う、と言いかけて、やめた。



 シール勘違い事件から数日後。
 今日も今日とて、マックスはどうやってナマエとの仲を深めようか考えながら廊下を歩いていた。

「マックスくん!」

 今まさに頭の中にいた大好きな女の子の声に心臓が跳ね上がる。まさか、向こうから声を掛けてくれるなんて。
 浮かれた心を隠し努めて冷静に、ちょっと良い声を意識して、どうしたの、なんて言いながらマックスは振り向く。そのモニターにナマエはぺたりと一枚のシールを貼った。

「わたし、無事にシール集め終わったからお裾分け! この間は断っちゃってごめんね」
 
 それだけ!呼び止めてごめん!
 そう言って、ナマエは手を振って去っていく。
 
「…………え、好き」

 思わずそう呟いたマックスの脳内では、最近流行りのラブソングを歌っているアイドルたちが好きだと歌いながら踊り狂っていた。
 可愛らしいナマエの笑顔は勿論のこと、自分が言ったことをちゃんと覚えていてくれたことが何よりも嬉しくて、どこまで惚れさせる気なんだとマックスは頭を抱えてしばらく動けなかった。