Tu sei tutto per me.

*現パロ



幼なじみが結婚することになった。恋愛感情を抱いていたわけではないし、祝福していないわけでもない。兄妹のように育った幼なじみの幸せは、もちろん私も嬉しい。ただ、もう家庭を築くほど年齢を重ねたのか、と時の流れの早さに気づけなかった自分に呆れてしまった。
大学時代から憧れていた仕事に就いて4年。いろいろな仕事を任されることが嬉しくて、必死に働いた。社会人として充実していると思っていたけれど、女として充実しているとは思えなかった。恋愛に対するモチベーションが低いのは自覚しているけれど、身近な人が結婚すると聞いて、少しだけ羨ましいと思っているのも事実だ。久しぶりにお酒が呑みたくなり、残りの仕事を片付けていると、隣の席のリドル君が声をかけてきた。



「ナマエ先輩、今日早いんですね」
「なんだか呑みたくなったからそこのバーに行こうかなって。リドル君もどう?」
「ご一緒させてください。すぐ片付けます」



ほとんど作業は終わっていたらしく、ささっと片付けたリドル君。部署に残っていたのは私たちだけだったので、電気を消して鍵をかけ、守衛室に持っていく。そのまま会社を出てバーに入った。このバーはお酒だけでなくパスタやおつまみも美味しいので、1人で良く来ていた。お気に入りのカウンターの奥の席が空いていたので、そこに座る。



「ごめんね、付き合わせちゃって」
「気にしないでください。先輩と呑めて嬉しいですから」
「お世辞なんていいのよ。わたしがおごるから好きなもの頼んでね。」


サラッとすごいことを言ってのける後輩のトム・リドルは社内でも有名な新入社員である。有名大学を主席で卒業し、ハンサムで紳士的な彼は、我がホグワーツ社のダンブルドア会長から直々にヘッドハンティングされた大型新人である。指導担当のわたしが何も指導する必要なんてない優秀な彼は、非常階段や自販機コーナーで告白されるなんて日常茶飯事だと給湯室でパートのおばさんが噂していた。 仕事も恋愛もきっとうまくいっている彼に悩みなんてないだろうな、と考えつつ、サーモンのマリネとポテトグラタンを注文表に書き込む。



「リドル君は何にする?」
「先輩と同じものをいただきます」
「なんでも好きなもの頼んでいいのよ?」
「はい、僕の好きなものです」
「そう?じゃあわたしはマリネをやめて、牛肉のトマト煮込みにしようかな。リドル君がいるなら食べられそうだし。量が多くていつも頼めないのよね」
「いつもお1人なんですか?」
「そうよ。ここにくる時はね。リドル君、最初は何呑む?」
「先輩と同じものを」
「じゃあ生ビールね」



注文表にすべて書き込んでベルを鳴らすと、店員がやってきてそれを受け取った。お酒を先に持ってきてもらって乾杯しつつ、料理を待つ。リドル君は話し上手で聞き上手だった。運ばれてくる料理は美味しいし、可愛い後輩の話は面白いし、明日は休みということもあって、いつもよりたくさん呑んだと思う。



「飲み過ぎですよ」
「んーー、あと1杯ーー」
「それ3回目ですよ」
「リドル君は全然酔ってないのねー」
「ずっと先輩を見ていたので呑むの忘れてました」
「ふふふー、ほんとうまいこと言うのねー!あ、受け付けのドロシーって可愛い子いるでしょー?あの子、わたしの大学の後輩なの。紹介するから口説いてみたら?」



ドロシーはわたしの後輩で、リドル君と同い年である。リドル君もわたしより若い子と呑みたいだろう。たしか、ドロシーはお酒に強かったし、うんうん。次は何を呑もうかとメニューを開くと、リドル君に取り上げられた。ムッとしてリドル君を見上げると、リドル君はわたしよりもムッとしていた。



「ナマエ先輩、怒りますよ」
「お願い、あと1杯だけ!」
「…僕を何だと思ってるんですか!毎日ナマエ先輩と同じくらいの時間に仕事を終わらせて、やっと呑みに誘われたと思ったら他の女を紹介しようとするなんてあんまりです!」
「もしかして、他の子が良かった?」
「っ、僕は!あなたを!ナマエ先輩を口説いてんるです!!」



何を言われているのかわからなかった。リドル君がまっすぐわたしを見ている。口説く?だれが?だれを?



「好きです、初めて会った時から。お願い、僕を、みて」



混乱した頭では何も考えられなかった。ただ、わたしを見つめるリドル君から目を離せなくなった。切なそうな、愛おしそうな、懇願するような、焦がれるような、そんな目だった。



「あなたは、僕のすべてです」



近づいてくるリドル君を避けようとは思わなかった。そんなわたしに小さく笑ったリドル君は、そのままわたしに口付けた。すぐに離れていったぬくもりが、何故か寂しかった。



「リドル君、もういっかい」
「好きって言ってくれたら考えます」
「トム、好きになってもいい?」
「ナマエさんのこと、大切にします」



どうやら期待の大型新人な彼は、キスも上手いらしい。



Tu sei tutto per me.
恋におちる音がした