凍る指先

※現パロ



トムはわたしの血の繋がらない弟だ。父の再婚相手の連れ子がトムで、聡明でハンサムな弟は当時中学生、わたしは高校生だった。メローピーさんはとてもいい人で、すぐに仲良くなれた。両親の再婚から数年経ち、わたしは大学生、トムは高校生になった。美少年だったトムは美青年に成長した。父に似て絵に描いたような平凡なわたしを気にかけてくれる思春期知らずの優しい弟は、今年は大学受験を控えている。



「ママ、いってきまーす」
「いってらっしゃい、ナマエちゃん」
「ナマエ、待って。携帯忘れてるよ」
「あれ、ほんとだ。ありがとう、トム」
「いってらっしゃい。迎えが必要だったら呼んで」
「友達とご飯に行くだけだから平気だよ。9時くらいには帰るね」
「うん。気をつけてね」



今日は大学のサークルの飲み会。駅前の居酒屋へ向かうと、既に集まっていた何人かで飲み始めていた。賑わう店内で先輩がわたしに気付いて手招いてくれたので、空いていた彼の隣に座った。



「遅れてすみません」
「いいんだよ。早めに着いたやつらで飲んでただけだから。ナマエは何にする?」
「ジンジャエールにします」
「酒は苦手だっけ?」
「はい…体が受け付けなくて…」
「他にも苦手な人はいるから気にしないで。無理に勧められないように、今日は俺の隣にいなよ」
「ありがとうございます。助かります」



先輩は話上手で、バイト先の話や兄弟の話をしてたくさん笑わせてくれた。ハイペースで飲んでいたせいか、お酒に強い先輩も少し酔ってしまったらしい。



「ナマエ、ちょっと肩借して。頭クラクラする」
「いいですよ。でも、その前にお水飲んでくださいね」
「おーありがとー」



先輩がわたしの肩に頭を乗せて休んでいると、反対側の肩を叩かれた。



「ナマエ、」
「え?あれ、トム?なんで?」
「もう10時すぎ。遅いから迎えに来た。ほら、一緒に僕たちの家に帰ろう」



テーブルに五千円札を置いたトムが、わたしのカバンを持って腕を引く。引かれるままに立ち上がると、テーブルのあちこちから黄色い声があがった。



「ナマエったら、こんなイケメンどこで捕まえたのよー!」
「彼氏なの?!!」
「一緒に住んでるって同棲?!」
「いいなー!イケメンで爽やかで高身長な彼氏!」



トムは女性陣の声に微笑み、わたしに有無を言わさず店を出てしまった。



「トム?あの、どうして?」
「居場所の特定はナマエの携帯のGPS。迎えに来たのは9時頃に帰るって言ったのに全然帰ってこないから。心配で受験勉強どころじゃなかったよ」
「うぅ、ごめんね。でも、弟ですって言えば良かったのに」
「W弟Wが迎えに来ても牽制にならないだろ。こっちの身にもなってよ」



わたしの平凡な頭では何を言えばいいのかわからなくて、繋いだ手を握り返すことしかできなかった。