エイプリルフール

小さな世界で君と


今日は4月1日、エイプリルフール。いつもトムにしてやられているわたしだけれど、今日という今日はトムをギャフンと言わせてやるんだから!

と、意気込んだはいいものの、どんな嘘がいいか思い浮かばず今に至る。このままだと正午を迎えてしまう。



「ナマエ」
「なに」
「ぼく、ひっこしすることになった」
「…えっ?」
「あしたには、ここをでていく。いままで、ありがとう」
「そう、なの」



急な告白に思考が停止した。でもよく考えれば当然のことなのかもしれない。魔法使いの兆候のあるトム、そしてメローピーが健在であること、ある程度お金が貯まったらここを出て、魔法界で暮らせばいい。わたしたちとこうしてマグルの世界で暮らす必要はないのだから。

わたしはトムもメローピーも家族のように思っている。わたしの両親だってそのはず。けれど、ずっと一緒に暮らすものだと当たり前に考えていたわたしがバカだったのだ。



「……決まったことなら、仕方ないわね」
「ナマエ、」
「どこにいても、トムもメローピーも、わたしたちの大切な家族だってこと忘れないでね」
「おい、ナマエ」
「寂しいけれど、元気でね」
「……ナマエ、バカだバカだとはおもっていたけど、よそういじょうのバカだね。きょうは、なんがつのなんにち?」
「……あっ!エイプリルフール!」
「ふん。ナマエもまだまだだね」



とても悔しかったけれど、同時にトムとメローピーを失わずに済んだという安堵が体中に広がった。へなへなと座り込んだわたしの前にしゃがみこんだトムは、いかにもしてやったりという顔をしている。



「ぼくがいなくなると、ナマエはさみしいんだね」
「悪い?!」
「そんなこといってないだろ」



むすっとしたわたしの頬に、小さな手を添えたトムは先ほどの悪どい笑みを消して、穏やかに微笑んでいる。



「ナマエがかなしまないように、ずっとそばにいてあげる」



温かいウソ
ぼくがいないと、ナマエはさみしい、って。かわいいこというじゃないか。