チョコレート色の恋人

僕の恋人がチョコレートブラウンの髪を靡かせながら小走りで中庭にやってきた。廊下で転んだら危ないよ、と何度注意してもなかなかやめてくれない。ナマエは小柄だから、小走りする姿は小動物みたいで可愛いけれど。



「ナマエ、廊下は走っちゃだめだよ」
「ごめんなさい……」
「次から気をつけるんだよ。で、そんなに急いでどうしたの?」
「あのね、ジェームズとシリウスがね、チョコいっぱいくれたから、厨房でフォンダンショコラ焼いたの!リーマスには焼きたてを食べてほしくて、」



ニコニコとしたナマエから差し出されたバスケットの中には、カップに入ったフォンダンショコラが6つと数枚のジンジャークッキー、スプーンが5本あった。白い粉糖を纏ったフォンダンショコラからは焼きたての甘い香りがする。カップを1つ取って、スプーンですくうと、しっとりとした生地の中から、トロリとしたチョコレートがでてきた。口の中いっぱいにチョコレートの甘味が広がる。本当に焼きたてのようで、舌をやけどしそうになるくらい熱々だった。焼きたてのお菓子を僕のところに急いで持ってきてくれたのだと思うと、胸がぎゅっとなった。



「美味しかったよ、とっても。ありがとう」
「よかった!みんなの分も作ったから、談話室で一緒に食べよう!あのね、リーマスだけ、特別にフォンダンショコラ2つあるの。内緒だよ!」



食べ終わったカップを魔法で消して、スプーンもきれいにしてからバスケットに戻す。
ベンチに座っていた僕の手を引くナマエは、厨房で屋敷しもべ妖精から聞いた夕食のメニューや、フォンダンショコラ作りについて本当に楽しそうに話している。
あっという間に寮に着いた。談話室の暖炉の傍には、ジェームズとシリウス、ピーターと、珍しいことにリリーがいた。



「リリー!ジェームズがいるのに、来てくれたの?」
「そうよ。おやつを作りに行ったナマエを待とうと思って談話室におりたら、ポッター達もあなたを待ってるって言ってたから、仕方なく一緒にいるの」
「えへへ、嬉しいな。リリー、ありがとう」



ナマエはバスケットからフォンダンショコラとスプーンをシリウス以外に渡した。甘いものが苦手なシリウスには、ジンジャークッキーを渡した。



「甘くて美味しいね。僕にも作ってくれてありがとう」
「ピーターはいつも優しくしてくれるでしょう。だから、お返し!」
「悪いな。俺だけ別に作ってもらって」
「そんなに手間じゃないから気にしないで!チョコをくれてありがとう!」
「美味しいわ!ナマエの作るお菓子はいつも美味しいわね」
「ナマエ、ありがとう!君のおかげで美味しいおやつとリリーとのティータイムを手に入れられたよ!」
「ポッター!お黙りなさい!」


少し暖炉から離れた場所で2つ目のフォンダンショコラを食べながら、友人たちを見つめていると、隣に座っていたナマエが僕の手をぎゅっと握った。心配そうに、不安そうに僕を見つめる瞳は、うるうるとしていた。もうすぐ、月に一度のアレがやってくる。



「大丈夫。プロングスもパッドフットもワームテールも一緒にいてくれるから」
「次はチークポーチも一緒だよ」
「……なんだって?」
「わたしのアニメーガス、リスなの。だからチークポーチ。リリーには秘密ね」
「だめだ!危険すぎる!来てはいけないよ、絶対に!」
「チークポーチはワームテールよりもすばしっこいの。怖くないわけではないけれど、これからずっと一緒にいるには必要なことだから。大丈夫、傷つけられそうになったら逃げるから」



人狼である僕が諦めていた学校に通うこと。友人をつくること。恋人をつくること。僕のような人間にはもったいないほどキラキラした宝物。

ナマエは陽だまりのようだ。ナマエは人狼である僕を、幸せから遠ざかろうとする僕を、手を伸ばして温かい場所にいつも引き戻してくれる。変身術が苦手なのに、法律を犯してまでアニメーガスになってくれたのだ。僕とこれからずっと一緒にいるために。

目の前にいる彼らとの友情を、彼女との未来を、望んでもいいのだろうか。ニコニコと微笑む彼女の手を握り返す。これは、僕の覚悟と決意だ。



「……僕は、なんて幸せ者なんだろう」
「リーマスが幸せだと、わたしも幸せだなぁ……あ、リーマスったら、口の端にチョコがついてる!」



僕の傷だらけの顔に手を伸ばし、指で口の端に触れた彼女の指はとても温かかった。指についたチョコをそのまま舐めたナマエは「甘いね」と笑っていた。



「、!リリー!唇にチョコがついているよ!僕がとってあげる!」
「結構よポッター!」
「ふふふ、またやってるね」
「うん、そうだね」



目の前には親友がいで、隣には愛おしい恋人がいて。ああ、ぼくはとても、とっても、


チョコレート色の恋人
しあわせなんだ、ものすごく


チークポーチ‥頬袋(cheeck pouch)を意味します。