chat up line


*グリフィンドール主



「やぁ、ナマエ。ここ、座っても?」
「こんにちは、セドリック。どうぞ」



図書室で本を読んでいたら、セドリックに声をかけられた。ハッフルパフ寮の彼が、グリフィンドールのわたしに一体何の用だろう。わたしが図書室にいると、彼はいつもこのように向かいの席に座る。最初のうちは落ち着かなかったが、今では慣れたものである。

彼は寡黙だと聞いているが、わたしの前だと余計に口を開かない。いや、開こうとするたびに、躊躇うように閉じてしまうのである。用がないなら声をかけなければいいのに、と思うのも仕方のないことだろう。それに、彼はわたしと接するとき、いつも端正な顔が強張っているのである。用がないのを通り越して、嫌われているのかもしれない。そんなに嫌いなら、なおさら声をかけなければいいのに。



「何か用?」
「いや、用というか……」



視線を彷徨わせ、結局口を閉じる彼にはもう慣れてしまった。うるさい人は苦手なので、セドリックのことは嫌いではないが、如何せん、女子生徒の視線が痛い。ハッフルパフ寮のプリンスとグリフィンドール寮の平凡な生徒であるわたしの接点といえば、監督生であることくらいである。そんなわたしたちに、彼の寮の女子生徒たちはいつも目を向けているのだ。

中庭で読書をする時も、それは変わらない。むしろ、中庭ではハッフルパフ寮だけではなく、何故かグリフィンドール寮の女子生徒までこちらを見ているので、視線は2倍になり居心地の悪さも2倍である。



「セドリック、用がないなら席を移っても?」
「どうして?」
「どうしてって、わたしが聞きたいわ。わたしに用はないでしょう?1人の方が落ち着くの」
「、待って、!用が、ないわけじゃないんだ、」



荷物を持って席を立とうとしたわたしを彼は引き止めた。ため息を押し殺して席に戻ると、彼はホッとしたように肩の力を抜いた。



「もし用がないって言ったら怒るわよ」
「用があるのは本当なんだ、」



わたしと目を合わせたかと思えば、パッと逸らす彼にだんだん腹が立ってきた。そんなにわたしが嫌いなら、何故引き止めたのか、甚だ疑問である。



「そんなにわたしが嫌いなら、それで結構よ。あなたにどう思われようと気にしないわ。だから、もう声をかけないで」



少々言葉に棘があった気がするけれど、ずっと思っていたことだ。これで彼の気も楽になるだろう。固まっている彼を残して、荷物を持って足速に図書室を出る。

彼に女子生徒が駆け寄っていたが、わたしには関係ない。自分を好いてくれている女の子に囲まれる方が良いだろう。中庭で中途半端になってしまった読書を再開していると、息を切らせたセドリックに肩を掴まれた。



「頼むから、僕の話を聞いてくれないかっ」
「走ってきたの?息を切らせてるあなたを見るのは初めてだわ。それに、しっかり目を合わせたのもね」
「緊張して、真っ直ぐ見れなかったんだ……僕はナマエが好きなんだ。だから、どうしても、緊張してしまって、」
「わたしのことが嫌いなのではないの?」
「まさか!僕はこんなに君のことが好きなのに!寮の女の子たちがアドバイスをしてくれるんだけど、君を前にすると口説き文句も忘れてしまって、」
「……あなた、自分が言ってること分かってる?わたしに告白してるのよ?」



わたしの言葉に我に返ったセドリックは、真っ赤になりながらも、わたし目から逃げなかった。



「僕は、ナマエが好きだ。恋人になってくれたら嬉しい」
「それなら、目を合わせても緊張しないようにしなくちゃね」



自分のために苦心してくれた彼が愛おしかった。抱きしめられて感じた彼の体温も、彼の寮の女子生徒たちからの拍手も、とても温かかった。



口説き文句なんていらないわ
目を見て、そして抱きしめてちょうだい