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「鮭食べたんだぁ。良いなぁ。……鷲も? 贅沢だなぁ。足、美味しかった? 僕も食べてみたかったぁ」
くくりつけた谷垣と気絶した葛葉をコタンまで運び、一晩経った。なかなか目を覚まさなった葛葉の起き抜けの、杉元を見てすぐの一声目がこれである。杉元は鮭を食べたことも、大鷲を獲ったことも伝えてなどいないにも関わらず、これだ。匂いでも残っていたのかもしれない。
葛葉は杉元が思っていた以上に弱っちかった。頭を殴られただけで気絶して、一晩意識を失ったままだった。あくまでも、杉元から見て頭を殴られた、だけ、なのだが。
ひとまず包帯を巻いて部屋の隅に転がしておいたのだが、ずっと静かに眠っていた。身動きもせず呼吸も些細なものだった。流石に死んではいないだろう、とも思ったが念のため何度か息を確認した。その度に白石が、葛葉チャンはいつもそうやって寝るんだから大丈夫だって、杉元ってば以外と心配性ね! と笑ってくるので、その度に杉元は杉元にとっての、ちょっとだけ、強めに小突いた。その度に白石はクーンと鳴いた。
「ああ、おはよう葛葉。頭は?」
「もう大丈夫。でもなんだか、懐かしい夢を見たかなぁ」
「夢?」
「風邪をひいて、その後……あぁ、いや、なんでもない、普通の夢だよぉ」
それっきり、葛葉は口をつぐんだので、杉元も何も聞かなかった。自身の血で汚れて斑模様になった白い外套を羽織って、彼の持ち物だという短刀を丁寧に懐に戻す。ちらりと見えたが、それなりに良い刀のように思えた。
白石曰く、外套も刀も誰かしらからの貰い物らしい。何かを貰うときは大概葛葉一人がふらふらと出かけていって、品物を貰って帰ってくるそうだ。物に限らず、情報も。
肉体労働としては白石以下だが、こういった点では役に立つだろう。杉元自身は第七師団に追われていておおっぴらには活動しにくいし、アシリパだけに情報収集をしてもらう訳にはいかない。
確かに葛葉はいつも笑っていて、なんとなく親しみ易そうだ。腕っぷしはからっきしだが、そういったところも相手の油断を誘うのかもしれない。
「なぁ、今度何かを貰う時一緒に連れっていってくれないか」
「佐一くん欲しいものあるんだぁ? 何が良い?」
「そりゃあ、囚人の情報、かな」
「あぁ……。そっちはそのうち由くんがちゃんと持って来てくれるから、大丈夫」
「あいつが?」
「ふふ。頑張ってるみたい」
そう言ってまた、笑っている。
じゃあ何か食べ物でも貰いに行こうか。と、葛葉は告げた。