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「やるじゃん」
「ありがとぉ」
 葛葉から団子を受け取った杉元は、少々行儀が悪いが歩きながら食べていた。なるほど、他人に薦めるだけのことはある。美味しい団子だ。
「で? どうやったわけ?」
「どう、って?」
「普通、家庭のことなんて分からないだろう。何か仕掛けがあるんだろ?」
 例えば、あの婦人のことを噂で知っていた、だとか。あれだけ目立ちそうな御人だ。本人は隠しているつもりでも、どこからか漏れ出ていた可能性がある。
 杉元がそう尋ねると葛葉は頭を振った。
「違うよぉ。見えただけ。近くを歩いていた人の中では、あの人が一番お金持ちで、やりやすそうだったから」
 葛葉は杉元の方を見てにっこりと笑った。先ほどまでとは違う、今まで通りの笑い方だった。
 そしてまた、口を開いた。
 もしあの人を見つける前に、息子さんのお嫁さんに出会っていたら僕は同じようなことを伝えていた。過干渉で自制心のない姑と共に居るのはさぞかしお辛いでしょうね、と。
 子どもはまだかと小うるさく、その癖家事や商売は押し付け毎日出歩いては肥えて戻ってくる姑。そんな姑の言いなりになっている夫。何事に対しても無関心を貫く舅。よしんば子供を授かったとしてもそれは跡取りであって、あなたの子どもとしてではない。夫と同じように傀儡として飼い殺されて、潰されるのがオチだ。あなたがよそへ逃げるのも分かります。あなたは悪くない。大丈夫ですよ。
「立場が変われば見方も変わる。上? 下? 敵か味方か。何者か。傍によれば良き隣人で、背後に忍びよれば悪魔だ。姑にとってはとんだじゃじゃ馬で、嫁から見れば口うるさい姑……。それでも僕があの人を選んだのはねぇ、うん、太っていたから、かなぁ。太れるほどの財力があって、食べることへの抑えがききにくい人だったから、僕に団子の一つや二つ奢ってくれるんじゃないかなぁ、って」
 大当たりだったよ、お団子美味しいねぇ。
「ふぅん? 結構人見てんだな」
 ひとまずのところ、情報収集は任せてしまっても問題なさそうだ。
 それにしても見えた、とは。一体何を見たのだろうか。それこそどこかで失態でも盗み見ていたのだろうか。
 白石が、葛葉には他人の過去でも見えているんじゃないだろうか、といつぞや言っていたのをふと思い出した。その時は酒が入っていたこともあり、いつもの出鱈目だろうと思っていた。
 まさか。
 そんなことはない。
 杉元は馬鹿な考えを団子と共に嚥下した。