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 僕は嫌だと伝えたのです。
 それでも大兄様が強請り、久方ぶりに顔をお出しになった叔父様がすっかり乗り気になってしまったのです。
 お父様はいずれ己の後を継ぐ大兄様に滅法弱いので、当然ながらその提案は飲み込まれるしかなかったのです。
 僕は叔父様が土産にと持ってきたカルタを皆でやりたかったのですが、この日は馬に乗ることになりました。お父様はカルタにお強くなくいつもお手つきばかりするのを、読み手のねえやに笑われたくなかったに違いありません。いつもそれで、恥ずかしい思いをするのですから。
 馬は大きく、僕はまだ一人では乗れません。それに僕は馬に乗るのが苦手でした。自分よりも遥かに大きく、聡明な生き物に跨り乗り物にするなど到底できません。
 すらりと伸びた足。張りのある筋肉。速く走るために洗練されていったその生き物を、どうして僕のような人間が操れるでしょうか。
 もちろん僕だって長い時を経た先には居りますが、まだまだ無駄が多いのです。
 僕は屋敷に残り、遠くの野山を馬たちが駆けるのをお母様と共に眺めました。
 お父様から手ほどきを受けたいと強請り、馬の乗り方を教えて貰っている小兄様を見てお母様はご満悦のようです。お母様は、自分の子どもである小兄様をとても愛していらっしゃいましたから。恐らくは、僕よりもずっと。
 好いた人とそうではない人との間の子なら、好いた人との子の方が好きに決まっています。お父様やお母様も例外ではなく、誰だってそうです。
 大兄様は跡取りにと、お父様手ずから厳しく、それでも大事に育てられてきました。そのためか、いつも自信に溢れた人でした。
 小兄様は大兄様ほど厳しくは育てられてはいませんでしたがその代わり良い教師が付き、お母様が甘やかしておいででした。自分はどうせ二番手なのだと、少しばかり卑屈になっているように思えます。
 僕自身は、どうでしょうか。飢えることもなく毎日暖かく過ごし、教育を受け誰とも争うことなく生きています。穏やかに。
 伏せられた黒帯の写真立てを、誰もが見なかったことにして過ごしています。
 情に流されやすいお父様は、今の妻に立てているようでいて未練が残っています。お母様はそれに対して静かに炎を灯しておられます。
 知らないふりをした小さな種は、今か今かと芽吹きの時を待っています。
 溜め込んだ秘密を真っ赤に散らし、皆が目を逸らしていたことを全て白日の元に晒すでしょう。
 鳳仙花のように無実を叫んだところで、種子は既に撒き終わっているのですから。