13

 白石は杉元と視線を交わした瞬間、お互いの意図を組み合った。
「なんだか猛烈にタヌキが食べたい!!」
「タヌキ獲ろうぜ!!」
 迫真の表情でそれを告げるとアシリパは、そんなに言うならば、とタヌキを獲るための方法を教えてくれた。枝に十字になるように切れ目を入れた毛よじりというものを手早く作ると、白石の尻で試してから杉元に渡した。
 由くんそれ痛そうだね、と声をかける葛葉に、全くだ、とおどけながら返事をする。痛さを誤魔化すように尻をさする。
 スポン、と巣穴から丸々としたタヌキが引きずり出された。寒さにより毛がふっくらとなっていて、その瞳は案外つぶらだ。どこか短く見えるその手足も相まって、そう。
「可愛い可愛い!」
「うわぁ〜まんまるだねぇ」
「白石! タヌキを絞め殺せ。でもタヌキは校門でも息をすると言われているから、この棒を肛門に突っ込むんだ」
「出来るかぁ!!」
 こんなに可愛いのに絞め殺すだなんて無理難題を言う。杉元によって吊られているタヌキはぴくりとも動かないため、既に死んでいるのでは? とも思ったが、次の瞬間白石の頭に齧りついて逃げ出していったため、タヌキは生きていることが証明された。
 尻をねじられ頭を齧られ、更には役立たずと詰られては堪ったものじゃない。思わず瞳が死んだ魚のように濁っていくのを感じた。
 その上、逃げたタヌキはリュウが捕まえて来た。流石だ、とリュウを褒める杉元とアシリパの背中を眺めながら、一つの考えが白石の脳裏を駆けた。
 羆の食べかけの子鹿を通り過ぎて、コタンへと向かう。タヌキを持った杉元はリュウを引き連れたアシリパと、白石の少し前方を歩いていた。少し不貞腐れたように歩く白石の斜め後ろに葛葉がゆったりとついて来る。
 そうだ。あの日自身を見つけ出したあの白い狼じゃなくたって、動物の鼻なら目当てのものを探し出せるのだ。苦労して手に入れた靴下を、服の上からそっと握る。いい加減役立たずの称号を返上したいものだ。そうだ。俺はあの脱獄王なんだと、やってやれぬことはないのだと、己を鼓舞した。
「由くん」
「うおっ! びっくりした……何?」
 す、っと近づいてきた葛葉に、ひそりと話しかけられて驚いてしまった。
 葛葉はやはりいつものように笑っていた。
「とりつかれちゃうかもねぇ」
 声を落として告げられたそれに、一体何事かと問う前に葛葉は前を行く二人の元を駆けて行ってしまった。
 そして、タヌキはどうやって食べようか、などと日常の話を、しているのだ。