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白石がもたらした情報によると、ニシン漁のために集められた季節労働者の中に辺見という囚人が潜伏しているらしい。
杉元はその男の痕跡に覚えがあった。後ろ手で縛られ、山中で死んでいた男の背中に刻まれた目という文字。白石の情報と併せて考えると、近くに辺見和雄が潜んでいるのは間違いなかった。
「辺見和雄に監獄で初めて会った印象は、ごく普通の男だった」
「そうそう。人が良くて礼儀正しい人だったよぉ。でも、結構な癖を持ってたなぁ」
辺見和雄についての情報を白石が話しながら、杉元たちは海岸へと向かった。
山を降りしばらくすると、潮の匂いが杉元の鼻腔をくすぐる。みゃうみゃうとカモメが鳴き、寄せては返す波の音が心地よい。海風は冷たいが、山とはまた違う感覚に杉元の心が躍った。
「アシリパ!」
クジラ漁をしているというアシリパの叔父だろう男性が駆け寄ってきた。
そして杉元たちは今、クジラ漁の船の上に居る。
漕ぎ手の二人が水を汲みに行ってしまったため手伝ってほしい、と言われたためだ。杉元はアシリパと共に叔父の船に、白石と葛葉はもう一隻の方にに乗り込んだ。
クジラは潜っているため、息継ぎをしに浮上した一瞬を狙うのだ、と説明を受けた杉元は二本あるモリの内、一本を受け取った。
「来るぞ杉元!!」
巨大な生き物が頭を見せた。
柔らかい、という首元を狙いモリを投げる。あまりにも巨大で、どこが首なのか分からないくらいだ。けれども生き物なのだから、狩れる。
投げられたモリは無事にクジラに突き刺さり、刺された方は逃げようと、その巨体を翻した。結ばれた綱がぴん、と張ったかと思うと、ものすごい勢いで船は滑り出した。クジラに引っ張られているのだ。
「突っ込むぞ気をつけろ!」
クジラの行く先にはニシン漁の漁船があった。白石は、危機を告げようと大声を張り上げたが彼らには届かず、どう、とクジラは漁船とぶつかった。
「漁師が落ちた!」
衝撃に耐えきれず、漁師の一人が漁船から落下してしまった。この時期でも水温は十分に冷たい。このままでは、漁師が死んでしまう。
「助けよう!! あっちの船はデカいから岸まで戻るのに時間がかかる。早く火に当てて温めないと低体温症で死ぬぞ」
杉元は思わず、叫んだ。
それに了承した叔父が綱を切る。
白石と葛葉にクジラの分け前をしっかり貰ってくるように告げ、船を漁師へと向けた。