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「杉元ウシロー! そいつが辺見和雄だ!!」
 クジラが運よく浜に打ちあがったため、船から浜辺に降り立った白石は杉元とその後ろの男を見て、声を上げた。杉元が仲良く手を繋いでいる男は凶悪な囚人だと、知らせるために。
 杉元が白石の知らせに反応する前に辺見は得物を振り上げたが、それはアシリパの放った矢によって阻止された。
 そこからはもう、杉元の仕事だ。
 辺見の得物をやり過ごした杉元は手早く辺見の腹に二撃入れ、それに負けじと辺見も抵抗を重ねる。二人は全力で殺し合い、命を燃やし、照り付ける太陽よりもなお、煌めかんとしていた。
 そこに、無粋な横やりが入ったのは運命だろうか。
 突如として現れたシャチに辺見和雄が攫われた。
 白石は杉元たちと合流し、手漕ぎの船を借りてシャチを追った。このままでは辺見が刺青もろとも食われてしまう。
 シャチは、そんな人間たちの焦りなどとは無縁であった。獲物を尾びれで打ち上げ、弄んでいる。シャチにとって辺見は、人間ではないのだ。ただの獲物。食い漁り、消化し、糧とするだけの存在なのだ。
「ちくしょうこのクソ冷たい海に飛び込むのか!」
 杉元が服を脱ぎ、辺見を回収すべく海へと沈む。
 海中での出来事は、船上にいる白石には判別できなかった。それでも何かしらの戦いを行っているのだろうということはうかがえた。それにしても、こんな海に飛び込むなんて杉元の胆力には舌を巻く。
「……辺見さん、良い死に方が出来るんだねぇ」
「杉元と殺し合ってシャチに食われて、どこが良いんだよ」
「だって、選べない未来の中でも理想的な死に方なんだよぉ」
 相変わらず、葛葉の考えていることは分からない。未来だなんて、自分の選択次第でいくらでも変えられるだろうに。
「お前ら無駄話なんてしている暇ないぞ。ほら、杉元が上がってきた」
 アシリパの視線の先で、辺見を抱えた杉元が浮上してきた。白石と葛葉は協力して彼らを船へと引き上げる。すると、アシリパがモリをシャチへと投擲した。
 モリはシャチへと突き刺さり、痛みにより逃げ出そうとしたシャチに引っ張られて船の速度が上がる。
「このまま第七師団を撒いてやろう!」
 海では海の生物に分があるようだ。追ってきていた第七師団も、手漕ぎではシャチに追いつけない。ざまあみろ。
「お前の煌めき、忘れないぜ」
 ……死体を抱きかかえてそんな台詞を言える杉元のことも、まるで分からない。