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 僕の世界には理解し難いことが多く存在していました。いくら他人の出来事を覗き見たところでこころの動きまではまるで理解できませんでした。それでも、慣れると仕組みを読み解くことは可能でした。
 星の動きが一定なのと同じように。あるいは川の流れのように。過去により未来を予測することは可能でした。おそらく。たぶん。こうなるだろうという予測。
 予測する精度を高めることによって僕は随分、息易くなったように思えます。
 僕の味方である数多のウルドを束ね、吟味し、彼女の行く末を、未来を、考えることにより僕は、不器用で不格好なりに人並みに生きています。
 だから僕は、お父様とお母様のひみつを知ってしまった時、葛葉の家は脆く儚くも、そしてまったくもってくだらない理由で、掻き消えてしまうだろうことが予見できました。既に決定づけられた過去に侵食された未来はなんて虚しいものなのだろうと思いました。
 僕一人が働きかけた程度で、とうてい修正できそうにない事柄でした。投げられた賽を覆すことなど出来ませんでした。
 お父様とお母様と兄様方と、それから少しの禁忌により僕ら家族は深淵よりもなお暗い亀裂が走ることでしょう。そして巻き込まれるのは家族だけではなく、雇い入れた使用人たちもまた、虚に落ちて行くことでしょう。
 不幸な秘密は甘い蜜をすすりながらゆっくりと確実に、成長しています。
 不幸を一番に被るのは、兄様方でしょうか。彼らは、両親の様々な思惑を栄養に育てられておりましたから。常に一番であると慢心していた大兄様と、劣等感を太らせた小兄様と。そこに、お母様の横やりが入ればいともたやすく彼らは衝突するでしょう。この時、お父様はあてになりません。なぜなら彼は情が深く優柔不断だからです。
 大兄様は前妻の、小兄様は間男の子どもでした。
 お父様は美しかった前妻に未だ心囚われています。お母様はそんな夫に腹をたて、よその男を惹き込みました。
 正確に二人の間の子どもであると証明できるのは僕だけでしたが、それすらもお母様はあまり快く思っていないらしいのです。愛ではなく情けをかけられるのは、自尊心の高い彼女にとって屈辱的だったからだと思います。
 みんながてんでばらばらに、好き勝手に生きていました。そして好き勝手にひみつを作っては密やかに育てておりました。
 次第に僕の身の内の感情は蛇のように巻き付き、鎌首をもたげ、僕に囁きかけました。
 彼らに林檎をプレゼントしようではないか、と。