18
クジラとシャチ、それから偶然採れた子持ちのコンブをたらふく食べ満足したのち、白石たちは浜辺をずっと歩いて行った。
夕方。陽が沈み始めすっかり凪いだ海が橙色に染まりゆくさまを見守った。そろそろ本日の宿を見つけねばなるまい、と話をしていた。
「あそこに番屋さんがあるよぉ」
葛葉が指さした先には、昼間に立ち寄ったものとは違う番屋が立っていた。葛葉はそのまま、交渉してくる、と言い残し番屋へと姿を消した。
しばらくすると、いつもの調子で捲し立てたのであろう葛葉が手を振りながら出て来た。どうやら、今夜は凍死せずに済みそうだ。
白石が火に当たりながら酒を呷っていたところ、同じように一晩の宿を借りに来たという老人がアシリパを抱き上げた。
「綺麗な瞳の色だ。よく見ると青の中に緑が散っておる……。ロシア人の血が混じっているのかな」
「ヒッ!!」
「どうした?」
「え? いや!」
間違いない。この老人は土方歳三に間違いない。
白石は、まるで冬の海に身を投げたかのように、一瞬で心臓が縮み上がるのを確かに感じた。船の上で、丁度葛葉と彼の話をしていたせいもあるかもしれない。ここで、白石が土方と通じたことを杉元に知られるのはなんとしても避けたかった。
杉元と土方が会話をしている間、白石は気が気でなかった。心臓は再び動き出し喧しく鳴動している。
杉元には言わない、という約束を葛葉はきちんと守るだろうか。いつも通りにこにこと笑いながら、彼らの会話を聞いている葛葉を見やる。葛葉は、懐かしむように、羨むように土方を眺めている。
そういえば、監獄ではこの二人はそれなりに仲が良かった。模範囚だった二人に、看守はどこか甘かった……否、葛葉に、甘かった。だから葛葉は紙だとかを多めに貰っては、二人で拙い俳句を詠んでいた。白石は俳句に関してはてんで素人だったが、お世辞にも上手いと思える部類ではなかった。
葛葉が一方的に懐いているように見えたが、土方の方もそれを悪く思ってはいないようだった。何故懐いているのかを尋ねたことがある。返答は、いつかの未来でも知られる人だから、と、いつものように要領の得ないものだった。
そして今でも、葛葉は土方に対して、おじいちゃんお酒飲む? やら、お腹がすいていない? 等と、へらへらと話しかけては笑っている。こちらの気も知らずに。
会話をひとしきり終えると、土方は立ち去る途中白石に耳打ちをした。
ただ一言。複製を作れ、と。