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白石とキロランケの冷えた体を温めるために起こした火で、イワン・オンネチェプ・カムイを焼いてたらふく食べた後、杉元はキロランケからのっぺらぼう――アシリパの父についての話を聞いた。
それを受けて、のっぺらぼうに会いに行くというアシリパ。だが、警備の厳重な網走監獄に侵入するのは容易ではない。もし侵入できるとすれば……その可能性があるのは。
「脱獄王」
全員の視線が白石へと寄せられた。やたらと得意げな表情を浮かべているのが少々苛立たしいがそれでも賭けるとしたならこの男を置いて他に居ない。
白石の刺青を確認したキロランケの、他にも刺青は無いのかという質問に杉元は、無い、と嘘を吐いた。いくらアシリパの知り合いと言えど杉元はまだキロランケのことを信用していなかった。
にわかに緊張感の走る中、葛葉だけがいつものように笑っていた。しかし杉元は葛葉がキロランケを見る瞳が少しだけ不安げに揺れているのを、見逃さなかった。
ひとまずは。今日は家に泊まっていけ、というキロランケの言葉に頷いた杉元たちは丸木船に乗り川を下る。
自分の父親がのっぺらぼうかもしれない、という不安を隠しきれないアシリパに白石がお道化たように任せておけと声を掛けているのを杉元は横目で見る。その言葉に安心したらしいアシリパに、杉元もまた安心した。
「佐一くん、大丈夫だよぉ。僕も網走には行けると思うからねぇ」
「……そうだな」
杉元の袖口を控えめに掴み、葛葉は囁いた。にこり、と笑ってみせた葛葉は、それだけ伝えると森の景色を眺めることに専念し始めた。その横顔からは先ほどの不安さはあっさりと消え失せていた。いつも通り、口元と目元を緩ませている。
ゆっくりと川を下っていくと、キロランケの住むという村が見えた。彼の息子に、シンナキサラ! と出迎えられ、家の中へと入った。
キロランケの家族に囲まれながら囲炉裏の傍へと座る。
――最後まで見届けたい。
そう語ったキロランケは、本心からそう言っているように杉元には思えた。アシリパもよく懐いているようだし、それほど悪い人間ではないのかもしれない。
けれども、信用するかどうかは別だ。
杉元が信用しているのはアシリパだけだ。白石も葛葉も、言ってしまえば別に信用している訳ではない。ただ、一緒に居た方が都合が良いという、それだけの話。