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 網走へ向かう前に、ひとまずアシリパの村へと寄ることになった。キロランケが農耕馬を貸してくれる、と言うことで杉元はアシリパと共に一頭の馬に跨った。残る馬は体格の良い農耕馬一頭と小さな道産子が一頭だった。
 誰がどの馬に乗るかという話になったが、キロランケは農耕馬に乗るという。小さな道産子に彼を乗せるとなると、道産子が少しばかり可愛そうに思えるため、否を唱えるものは居なかった。そして、馬の疲労を考え白石より体重の軽い葛葉がキロランケと同じ馬に乗ることになった。
「葛葉、一人で馬に跨ることは出来るか?」
「できるよキロさん。あんまり得意じゃないけど、何度か乗ったことがあるんだぁ」
 よ、と掛け声をしながら、葛葉は手慣れた様子で馬に跨る。その後ろにキロランケが跨り、手綱を取る。
 道産子を宛がわれた白石が、馬が小さい、等の文句を言っていたが、悪いな、の一言で流されてしまう。それを見た葛葉がまた笑うなどの一幕を背負いながらも一行は進んでいく。
 然したる会話もなく、馬が雪を踏みしめる音ばかりが山間を支配していた。
 けれどもそれは、唐突に打ち破られることとなった。
「有り金と馬をいただく。そっちの兵隊さん、肩の銃を捨てな」
 銃を構えた男と小さな刃物を携えた男の二人組。そこらあたりに転がっていそうな、よく居る山賊、といった体だ。勿論、杉元に従うつもりは一切なかった。
「おとなしくはできねぇな」
 低い声でそう言ったキロランケが無造作に何かを投げた。ころころと山賊の足元に転がったそれは、円柱に近い形をしていて先端にある導火線には火が着いていた。……手投げ弾だ。
 ドガン、と爆発したそれに山賊どころか杉元の乗っている馬まで驚いてしまった。爆発の衝撃で飛んできたのが土くれだけだったから良かったものの、もし手投げ弾の破片まで飛び、あまつさえアシリパが怪我でもしてしまったらどうしてくれるんだ、と杉元の中でふつふつと怒りが湧いてきた。
 怒りのままに馬を飛び降り、刃物を手にした男の足を蹴りつける。男の手を掴み親指をへし折る。全く毛のない頭をばちばちと手の平で叩きつける。後ろで白石がおろおろしているが知ったことではなかった。
 殺すまでもなかったため、散々痛めつけた後に木の幹に縛り付ける。二人とも容赦ないよね、と言いながら葛葉が山賊を眺めつつもいつもの笑みを浮かべていた。
「随分と物騒なもの持ってるじゃねぇか。巻き添えは困るぞ」
「さっきのは火薬を少なめに調整してある。……俺は工兵でね」
 なるほどそれは、油断できない危険な野郎だ。