22

 コタンにて回復した谷垣と話をした後、キロランケの提案で爆薬や武器を仕入れるために札幌に寄ることになった。道中、白石が馬から落ちて行方が分からなくなり、総出で探し回ったため杉元はすっかり疲れていた。
 僅かに雨の匂いが残る札幌でキロランケが買い物を終えると、色っぽい女将が居るホテルがある、という噂を聞きつけた白石が鼻の下を伸ばしながらそこに行きたい、と言い出した。どうせ女将が目当てだろうと思ったが、杉元も疲れていたし、たまにはふかふかのベッドで眠るのも悪くない、という気持ちの方が勝ったためその提案を受け入れた。
「すみませーん、だれかいますかー?」
 札幌世界ホテル、その入り口で杉元が声を上げると一人の女性が二階から降りて来た。まとめ上げられた黒髪が艶やかで、ぽってりとした肉厚の唇は桜色に染まっている。少々痩身気味のような気もするがなるほど、彼女が噂の女将で間違いないだろう。
「シライシヨシタケです。独身で彼女は居ません。付き合ったら一途で情熱的です」
 まだ宿泊したいと言い終わっていないのにも関わらず、白石が精一杯の決め顔でそう言いながら女将に握手を求めたのを、杉元は冷めた目で見ていた。せめて一晩だけでも……そんな下世話な思考が丸わかりだ。
 部屋は結局、二部屋とることになった。杉元はアシリパと共に。もう一部屋は、残りの三人で使うことにした。
 必要以上に入り組んだ作りのホテル内を女将に案内されながら歩く。もしも何かあった時のためにできるだけ内部構造を把握しておきたかったが、これでは覚えきれないだろう。
 ふと、キロランケの横を歩いていた葛葉が歩く速度を上げ、白石のすぐ後ろについた。そして白石の裾をちょいと引っ張り、ひそりと耳打ちをした。
「あの女将さんは止めておいた方が良いんじゃないかなぁ」
「なんでだよ、あんな美人そうそういないぜ! 一発くらいさ……。ここで引いたら男が廃るってもんだ」
「そんなにあの人が良いの?」
「あったりまえだろ。え、それともなに、葛葉チャンってカノさんみたいな美人にも反応しないの……? それってちょっとやばくない? ホントに男かよ」
「由くんこそ大丈夫?」
 葛葉はそれ以上言っても無駄だと判断したのか、再び後方へと戻る。去り際に、悪趣味、と漏らしたのが気にかかった。キロランケと談笑し始めた葛葉を振り返ると、やはりいつも通りの笑みを浮かべていた。