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またひどい目にあった!
夜中に妖怪が来たかと思ったら狼で、この前の兵隊を助けるためにアイヌの娘と嫌々ながら行動を共にした。葛葉はその間起きなかった。身じろぎ一つせず、呼吸音も小さく、毎晩ながら死んだように眠っていた。
狼に気をつけろ、とはこの事だったのだろうか。しかし、二匹の、というのが気になる。あの白い狼は一匹だけだった。
「葛葉チャン起きて。朝だよ」
声をかけ揺さぶると、まばたきを一つした葛葉がこちらを見る。彼は寝起き事態は悪くないがある程度の時間眠らないと起きない。
「おはよう。おかえり」
あくびを一つして起き上がる。呑気なものだ。
「またひどい目に合ったんだぁ。眠りが深くて良かった。でも、三度目だからね」
ぐ、っと伸びをした後に毛布を畳んだ葛葉は、そう言った。
「今日は酒屋の奥さんに良いお酒を貰えるから、それで良いでしょう? 僕はお酒飲まないから由くんにあげるよ」
「んーそれならまァ、いいけど」
どうにも機嫌の取り方を押さえられてしまっている。
葛葉が貰ってくるものなら上物だろう。飲んでよし売ってよしの器量良しに違いない。
「あぁ、それと。昨日一日帰って来なかった由くんに、美味しいお話があります。刺青の情報だよぉ」
相も変わらず笑いながら、葛葉はそう切り出した。
毛皮商の男から聞いたらしい。なんでも、数年前殺人の罪で投獄された男が小樽に帰ってきた、と。
由くんも知ってる人だよ、なんせ一緒に脱獄したんだもんね。もちろん僕も。ふふ、勃起勃起。
柔らかい葛葉の声で連呼される勃起の言葉は、幼い子供が意味も知らず口にしているようで妙に似合わない。
「お土産持って兵隊さんのところに行くんでしょう」
「はー……そこまでお見通しかよ」
白石自身が行おうとしていることを先に言われることも多々あった。誰にも伝えず、内に秘めていてもお構い無しだ。
白石はそのことに慣れてきたが、他人に自分のことを言い当てられるのはやはり、少し怖かった。
それと同時に思うのだ。葛葉の不思議な力を使えば財産を築くことも夢ではない、と。実際、白石は葛葉が他人から貰った物を売りさばいて金儲けをしている。大体は酒や女に消えてしまうが、一山当てれば良い話だ。
それの第一歩として、莫大な金塊。
非力な白石と葛葉だけでは他の狂暴な囚人連中に捻り殺されてしまうだろうが、あの杉元という男と共に居れば金塊を手に入れる確率が格段に上がるに違いない。
「またひどい目、に合うよ」
「そりゃあそうさ。ま、少しくらいなら構わねぇよ」
少しじゃないよ、良いのぉ?
目の前で今日も葛葉が笑っている。