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 雪山をかき分けて、白石と葛葉はアシリパというアイヌの少女が使っているであろう、草で出来た小屋に来ていた。
 白石が寒さにより身を縮めていても葛葉はどこ吹く風で、ぼんやりと晴れた空を眺めていた。それもそのはずで、葛葉は昨日は身に着けていなかったはずの、毛皮の外套を纏っていたからだ。
「それどうしたの?」
 どうして自分の分も用意してくれなかったのか、という少しばかりの非難をこめて白石は聞いた。
「由くんにはお酒あげたでしょう。……これはね、大国主神が去った後の高草の中にお隠れになっていたものなんだよぉ」
「えぇ? 誰ぇ?」
「それとも倭建命だったかなぁ」
 いつものようにうっそりと笑っている葛葉に上手く誤魔化されているような気がしてならない。白石は持ってきた酒瓶に頬を寄せるとクーンと鳴いた。あぁ、早くこいつを飲んでしまいたい。
「今日中にはその兵隊さんと会えるからねぇ。良かったねぇ、きっと美味しいものも食べられるよぉ」
 雪の眩しさに目を細めて葛葉は断言した。
 大丈夫大丈夫、と更に繰り返し呟いているその横顔を、特にすることも無いので眺める。いつ見ても童顔で、けれどそれぞれの部位は大人のそれにも見える。いつも笑みを彩っている瞳は底知れない暗い色をしている。
 二人はお互いの過去を詳しく知らない。葛葉の方は感づいているだろうが、白石は監獄で仕入れたおおよそのことしか知らなかった。
 なんでも、葛葉には兄が二人居て、自身が家督を継ぎたいがために二人を殺害したのだ、と監獄ではまことしやかにそう囁かれていた。
 白石にはどうにもそこが解せなかった。頭は悪くないがある意味ちゃらんぽらんな彼がたかだか家督を欲しがるとは思えなかったからだ。表だって指揮を執るよりも、裏から糸を張り巡らせている方がよっぽど葛葉らしい。詳しく聞けば教えてはくれるだろうが、今はまだ機ではないような気がしていた。
 すっかり冷えてしまった体を抱え直した白石は葛葉から視線を外し、彼と同じように外を見やった。
「いつ来るんだか……。葛葉チャンその外套貸してくれない?」
「これは駄目だよ。一昨日帰って来なかった人には貸せないんだなぁ」
 ……クーン。