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 手土産を持ってきた、という白石とその同行人は本当に良い時に来てくれた。杉元は鹿の頭を降ろしてにんまりと笑った。
 さあ遠慮せずに食え! と、アシリパに差し出された匙の上には鹿の脳みそ。……脳みそだ。白石と順に匙から食べさせられ、お互いに微妙な顔になる。
 残る一人はというと、意外や意外。にこにこしながら食していた。
「脳みそ平気なのォ? えぇと……誰?」
「葛葉常義、ですよぉ。今後ともよろしくお願いしますねぇ、佐一くんにアシリパちゃん」
「葛葉チャンとは一緒に脱獄してな、刺青も入ってないし腕っぷしも強くないけど、まぁ、居たら居たで便利な奴でさ」
 白石と違って犯罪を犯しそうな雰囲気はないが、事情は人それぞれだ。人というのは詮索されたくないことをいくつも抱えている。
 目下のところ、問題は脳みそやら内臓やらだ。その取り分が減るのなら、一人くらい増えたって全く問題ないどころか、歓迎だ。白石は杉元と同じくそれらが苦手そうだが、葛葉は平気そうだ。ある程度食べて貰えば良い。
「よし。次は鹿の肺だ。これも生で食べる」
 血なまぐさいモツの味だ。馴染み深い、嗅ぎ慣れた匂いだ。
 白石とは再度微妙な顔を見合わせたが、葛葉はこれも美味そうに食べている。
 その後、セウリを全員でチタタプにして、背中の肉も食べた。酒も入り、良い気分だった。アシリパの、獲物に対する敬意を聞いた。だからだろう、彼女に対し己のことを覚えていてくれるか、などと尋ねてしまったのは。
 良いだけ騒ぎ、アシリパが小屋の外に飛び出してしまった後、白石が口を開いた。
 冬眠中の羆もうなされる。悪夢の熊撃ち二瓶鉄造。
「その名前、聞いたことがある」
 屋根から抜け出したアシリパから聞いた、二瓶鉄造の執着心と苛烈さ。
 白髪混じりの初老で、茶色のアイヌ犬を連れているらしい。得物は、18年式の単発銃。
「それからもう一つ。白い狼の毛皮を狙っているらしいよぉ」
「え、葛葉チャン俺その情報知らない」
「由くんには言ってないからねぇ」
 葛葉の付け加えた一言により、アシリパの身が一瞬強張ったのを感じた。白い狼なんて、一匹しか心あたりがない。
「おい白石。お前、今まで得意げに語ってた情報自分で仕入れたんじゃなかったのかよ! てめーはフプチャの刑だ噛めオラ!!」
「えぇ? 屋根じゃんそれ……ばああああああ!!」
「うわぁ由くん苦そう。頑張れ頑張れー」
 転がってきた金塊の手がかりに、緩みそうになる頬を密やかに押さえた。