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殺気の匂いが杉元から発せられているのを、アシリパは嗅ぎ取っていた。
杉元は二瓶という男の人皮を剥ぐために。アシリパはレタラを殺させないために、その男の背後を陣取った。二人ずつ行動するため、杉元は白石と、アシリパは昨日紹介された葛葉という男と一緒に居る。
ゆったりとした、どこか緊張感のない男だ。ただ、昨日はユクを残さず食べたのでそこは評価できる。出された食べ物は残さない。そんな気概が感じられた。
「二瓶さん、あの木陰を狙っているねぇ」
レタラだ。
じりじりと、二人で雪面を移動する。
二瓶が銃を構える先には、レタラが居る。このままだと、撃たれてしまう。
アシリパは弓を構え、恐らくレタラの気を惹くために置いてあるのだろう、不自然な飯盒を射抜いた。
バギャアン、と大きな音が雪山の静寂を打ち破り、一瞬だがレタラの気が逸れたようだ。そしてすぐさま、レタラの首元ギリギリに銃弾が撃ち込まれた。
……良かった。アシリパは胸を撫で下ろした。
杉元は今頃、二瓶を相手取っていることだろう。これで二瓶は杉元にかかりきりになり、ひとまずはレタラが殺されてしまうということはないはずだ。
張り詰めた糸が切れて、すっかり油断してしまっていた。だから、雪面を踏みしめて静かに近づいて来ていた人物にアシリパは気が付かなかった。
「兵隊さん、それ以上は駄目だよぉ」
はっとしてアシリパは振り向いた。
葛葉がアシリパをかばうように前へ出た。その兵隊は、以前会ったことのある男だった。
「一般人か……いや、彼らと共に居るということはそうではないのだろう。……抵抗しない方が身のためだぞ」
「そういう訳にもいかないんですよねぇ……まぁ僕はあんまり戦えないんですけどぉ」
そう言って葛葉は外套の下からぬらりと短刀を取り出した。いつの間にそんなものを仕込んでいたのか、アシリパは知らなかった。
葛葉はやる気の感じられないないまま短刀を振りかぶり男に襲い掛かる。が、自称するだけあってその動きはどんくさい。白石の方がまだまともに動けるくらいだ。
案の定、あっさりと兵隊に腕をつかまれ捻りあげられてしまった。
「ありゃあ……うぅん、やっぱりおじいちゃんみたいにはいかないかぁ」
「まるで素人だな。悪いが、しばらく寝ていてもらう」
葛葉は手の中から抜け出そうともがくが、兵隊の方が力が強かったため全く意味をなしていなかった。兵隊はそのまま葛葉の後頭部を殴り気絶させると、アシリパの方へと向き合った。