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葛葉を置いてきてしまった。
二瓶たちに追いつき、全てが終わってほっとしてふと、白石は葛葉のことを思い出した。少しばかり薄情だな、とも思うがさきほどはそれほどの余裕がなかったのだ。
土地勘のない山の中で、杉元を追い、周りの景色を覚える間もなく走っていた。はぐれたら、麓まで戻れる気がしなかった。だから、仕方ないのだ。
まさか、死んでしまってはいないだろうか。
負傷した谷垣を運びやすいようにくくりつけた後、白石はアシリパに尋ねた。
「アシリパちゃん、葛葉チャンは?」
「葛葉は谷垣に殴られて気絶していた。……私もその後捕まってしまったから、どうなっているかは、分からない」
どことなくシュンとした様子のアシリパに深く聞く気にもなれず、杉元に一声かけてからその場への案内を頼んだ。谷垣はくくってあるし毒で体も辛いはずだ。もし何かあっても杉元一人で十分だろう。
アシリパを先導に山道を行く。先ほどの場所にたどり着くと、一人の男が倒れていた。葛葉だ。頭から流れ出た鮮血が、雪の上を赤く染めている。毛皮商から貰ったというご自慢の外套も、血で無残に汚れてしまっていた。
血の量に一瞬ぎょっとしたが、近づいてよく見てみると、僅かに息をしている。生きている。
無意識に止まっていた息を深く吐いて、白石は胸を撫で下ろした。なんだかんだ言っても、知り合いが死んでしまっては寝ざめが悪かった。その人物が何故か懐いているのなら、余計に。
「葛葉チャン起きてる?」
「なるべく揺らさないようにしろよ。ほら、お前がおぶっていくんだ」
アシリパの方も、なんとなく声に張りが戻ってきているような気がする。
白石はアシリパの言う通り、葛葉をゆっくりとおぶった。まだ気を失っているためぐったりとしていて、やけに重たい。雪の中に倒れていたせいか、体はすっかり冷えていた。まだ流れている血液が、ぬるりと白石の首元を伝っていく。
よっこいせ、と掛け声と共に立ち上がると、葛葉の手の中から何かが滑り落ちた。どうやら、刀のようだ。いつの間に仕込んでいたのか。葛葉のことだからまた、誰かから貰ったのだろうと検討をつけた白石は、それを鞘に戻し運ぶようアシリパに頼んだ。アシリパは了承すると、汚れのないそれを仕舞い懐に入れた。
人一人を背負っているため、来た時よりもどうしても足取りは重くなる。時々抱えなおしながら、雪を踏みしめ一歩一歩歩いて行く。
服越しに、白石の体温が葛葉に移っていく。静かな心音を感じる度、こいつは生きているんだ、と思った。いつものらりくらりとしていて、全く死にそうにないくせに、怪我なんかしていて、なんだかおかしかった。