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ふすまを開けたその人も、知らない人だった。
先頭に居た、水色の髪をした男の人。その後ろには先ほどの赤い髪をした少年と緑色の和服を着た神主さんみたいな男の人。誰もがどことなく緊張した雰囲気を纏わせていて、なんだかこっちまで身構えてしまう。
勝手知ったる、とでも言う風に、赤い髪の少年が部屋の片隅から座布団を四枚取り出して設置する。そのついでに敷きっぱなしだった布団をさっと片づけてしまう。やっぱりここは手を出さないでおいて正解だったのだろうか。
三枚並んだ座布団と、一枚だけの座布団。俺が座るなら、一枚だけの方だろうな、と検討をつけるとその通りだったようで、その位置に座るよう促される。
真正面には神主さん。その右隣に水色の人。反対側には少年がそれぞれ座る。じぃ、と見定められるように視線を送られて、妙に居心地が悪い。
「包丁藤四郎、君が今までどこに居て、何をしていたか分かるかな?」
「え、っと……お母さんと一緒に居て……暮らして、それから、知らない内にここに居たんだ」
つっかえながら、ぼそぼそと彼に答えていく。お母さんとは普通におしゃべりできていたのに、他の人だとどうしてこんなにも話難いんだろう。
「成程。では、私の両隣に居るのは誰か、分かるかい」
俺がお母さん、という言葉を出した瞬間、剣呑さを纏った二人を恐々と見る。少年の方は全く心当たりがない。けれども、水色の男性の方はなんとなく、ほんとうに薄らと記憶の端に引っかかっているようなものだったが、いつか、どこかで……そうだ。
「そっちは知らない。けど、右側の人は多分、川の向こうに居た人と似てる……かも」
「川の向こう?」
「川の向こうには、お母さんの仕事場があるんだって。向こう側に行ったら俺は怒られちゃうから、行けないけど……川べりを探検してる時に見かけた、向こう側の人に似てる」
でも知らない人だよ、と言葉を閉めると、彼らは一様に痛みを抑えるような表情になった。もしかして、俺と知り合いだった? 知り合いに忘れられてちょっと悲しい……みたいな。俺は彼らを不快にさせているのだろうか、だとしたら申し訳ない。
お母さんと過ごすようになってから、人の顔色を窺うことが多くなったように思える。視線を合わせないように泳がせながら、下からそっと覗きこむようことが、増えたように感じる。前は多分、そうでもなかったはずだけれど。前、がいつを指しているのかは未だに謎だけどね。
「うん、答えてくれてありがとう。君はまだつかれているようだから、もう少し休むと良い。寝ていても良いし、縁側に出て景色を眺めるのでも良い。好きに過ごして良いんだよ。言いつけを守るだけではなく、自分のしたいことをすれば良い」
神主さんは終始穏やかにそう言って、両隣の二人に目くばせをしてから部屋を出て行った。好きにしても良いと言われたって、ここは他人の家なんだから、あまり動かない方が良いんじゃないだろうか。
なんだか無性に、お母さんに会いたい。
座布団を枕代わりに寝転がりながら、俺はそんなことを考えていた。