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 これは相当頭に来ているようだ、と石切丸は一期一振と信濃藤四郎を見て思った。
 無理もない。大勢兄弟の居る粟田口は、皆仲が良くお互いのことをよく気にかけているのだから。
 今回、主がとある本丸への立ち入り調査を任された時、真っ先に賛成をしたのは一期一振だった。何故ならそのとある本丸では、短刀の顕現報告数が通常よりもかなり多かったからだ。短刀を身内に多く抱える彼のこと、例え別の本丸のことだったとしても弟たちに何かがあったのならば助けたいと、そう思ったに違いない。
 審神者の多くは、同じ刀剣男士を複数顕現しない。答えは単純で、同じ刀剣男士は同じ隊に組み込むことができないからだ。一つの隊に同じものは一振りだけ。複数顕現したところで、戦力的にはあまり期待できないのだ。それに、同じ顔がたくさん並んでいたならややこしくて、混乱してしまう。
 けれども件の本丸は違った。脇差や打刀、太刀、大太刀、槍、薙刀、彼らは一振りしか顕現していないのに対して、記録によると、入手が困難で審神者の間では所謂レア、と呼ばれるもの以外の短刀は少なくとも三振り以上は同じ刀剣男士が顕現されていたという。例えば、石切丸の同派にも短刀が居るが、彼は五振りほど呼ばれたことがあるらしい。出陣して折れてしまって、あるいは手違いで刀解をしてしまって、それで同じものを再度呼ぶ、というのならば話は分かる。
 どうやら違うらしいのだ。
 一度に呼ばれるのは一振りだけ。つまり、その本丸では短刀同士が顔を突き合わすということがないらしかった。その一振りが折れるか、刀解をすると、また新たに一振り呼び出すことを繰り返していた。夜戦である京の都を攻略したりするなら、短刀だけの部隊を作って送り出した方がよっぽど効率が良いのに、その審神者はそれをしなかった。
 その審神者は多少の効率の悪さには目を瞑り、脇差や打刀を中心にした部隊で京の都を攻略し、なおかつ、江戸城下へも兵を進めていた。そう。短刀の顕現の仕方が少しおかしい、というくらいで、審神者は別に何の問題もなく本丸を運営していたのだ。
 それがある一時を過ぎてから滞った。
 進軍もせず、演練にも出ず、必要な事務処理もせず、審神者は離れから出てこなくなった。
 政府はそれに対し通告した。そろそろ本丸をしっかり運営しないと、政府のものが監査に行きますよ、とそんな具合いに。
 それでも審神者は応じず、本丸の運営を放棄したままだった。
 政府はその本丸に赴く前に一度、今までの運営状況を再度洗い出した。それで、短刀の顕現の仕方がおかしい、と、その段階で気が付いた。
 それからは早かった。素行優良として通っている主に、同じ審神者として監査に立ち会うよう依頼し、詳細を知った一期一振が賛成した。少量ながら褒美も出る、ということで主は承諾した。
 主について行ったのは一期一振と石切丸、それから物吉貞宗の三振りだった。
 門を潜り、その本丸に入った時、石切丸は思わず顔をしかめた。何か、やたらと甘い匂いがしたのだ。
 石切丸の過ごす本丸と似たようなつくりをしているが、どうにも天気が悪く、靄がかっているせいで遠くまでは見通せない。一番索敵値の高い物吉でさえも同感だ、というのでよっぽどだ。
 ひとまず、政府の職員と主、三振りは玄関へと向かった。
 先日お電話差し上げました、本日は本丸への立ち入り調査の日ですのでご協力お願い致します。と、職員が声をかけるとこんのすけを抱えた江雪左文字が現れた。
 とうとうこの日が来たのですね、と憂いながらもどこか嬉しそうに一行を出迎えた彼は、こんのすけを床へと降ろし、本丸内の案内を始めた。