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地元から離れて一人で暮らし始めてそれなり経ってしまった。毎日仕事で疲れて帰ってきてから食事や風呂の準備。たまの休みも掃除や買い出しで終わってしまう。
ふええ。一人暮らしがこんなに大変だとは思ってなかったよぅ……。
などとかわいこぶりっこしても現状は変わらなかった。
そもそもがズボラなのだ。とにかく家事が面倒くさい。あぁ、甘やかされたい。
毎日ご飯作ってもらってお風呂が沸いてて洗濯も終わってるあの生活に戻りたい……。いくらでも肩揉みするしお金だって入れるから、そんな生活を保証されたい……。
そんなことをいつも考えていたからだろうか、ある日目が覚めたら見知らぬ女性が目の前に立っていた。
ちろり、とあたりを見渡すと何やら神棚のようなものがある和室だった。こんなところ知らないぞ。
え? 明晰夢?
「包丁藤四郎だぞ! 好きなものはお菓子と人妻! よろしくー!」
え? え? と混乱している間に私は勝手に喋っていた。聞こえてきた声は私のものではなく、ショタのものだった。ちらり、と自分を見てみるとナイスなふとももが……。おおう。これはアレだ。所謂トリップとかそういうアレだ。やっぱり夢か……。
「よろしくね、包丁くん。私のことはお母さんと思ってちょうだいね」
そう言ってふわりと笑った彼女は私のことをそっと抱きしめた。あぁ、豊かな母性の象徴が暖かい……。
とりあえず、自動的に話した先ほどの言葉が今の私のデフォルトを端的に表しているのだろう。一人称は……ちょっと生意気そうな感じの声だったから、人と話す時は俺にしよう。
お菓子と人妻が好き、かぁ。この年で人妻好きってどうなの? ある意味将来有望だな私。うーん、お母さんって解釈を広げれば人妻よね。
「うん! よろしくねーお母さん!」
ぎゅうううっと抱きしめ返せば彼女は大層嬉しそうにしている。よしよし、この対応で間違ってはいなさそうだ。
とりあえず私は甘やかされたいのだ! これが夢だろうと何だろうと、母と呼んでほしい女性が居て私はショタだ! 合法的にバブみを感じてオギャれる訳だ。これはちょっと古い表現か?
「ねぇ、お母さんは俺にお菓子くれる?」
抱きしめられたまま上目遣いでそう尋ねれば、彼女はいたく感激した様子で、えぇ待っていてね、用意するわ。と言ってくれた。ショタの上目遣いってすごい。私はそう思った。
「まずはお部屋に案内するわ。はぐれないように手をつないで行きましょう」
熱烈なハグから解放された私は、素晴らしき甘やかされライフへの切符を手に取った。