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「包丁くん、ここで過ごすにあたって一つ守って欲しいことがあるの」
 団子を堪能した後、彼女はそう切り出した。
「このおうちの中も、お庭も自由に見て回って良いのだけれど、川の向こうにだけは行っては駄目よ」
「川なんてあるの?」
「ええ、川の向こうはお母さんの仕事場があってね、なるべく包丁くんには行ってほしくないのよ」
 まぁ子どもに仕事場うろつかれたら邪魔なだけだもんなぁ。
「分かった! でも、お母さんはいつお仕事に行くの?」
「昼の間だけよ……今は、お昼休みなの。お皿と湯呑を片づけたらお仕事に行くから、お留守番頼むわね」
「それくらいなら俺が片づけておくよ?」
 いくら甘やかされ野郎だとしてもそれくらいのお手伝いなら進んでする。こういう細かいお手伝いポイントを貯めておくのも、おこちゃまにとっては死活問題だったりするのだ。主に、ご機嫌取り的な意味で。
「いいえ、いいの。これは私がやるから……。もし割れたりして包丁くんの手が傷ついたりしたら大変でしょう?」
 いやーさすがにそこまで不器用じゃあないぞ私は。まぁ怪我とかはなるべくならしたくないけど、全くの役立たずっていうのも心苦しいっていうか。
「でもお仕事忙しいんじゃないの? お手伝いくらいなら……」
「お母さんが良いと言っているのよ? 私の言うことが聞けないの?」
 はいスミマセンデシター。ふええ……母親の圧力怖いよぅ……。
 美人なだけあってちょっと怒っただけでもすごい迫力だ。怒鳴ったり口汚いわけでもないから余計に怖いのかもしれない。笑顔なのに怖いって、すごいスキルだ。
「それじゃあ夕方までには帰ってくるから、お留守番、よろしくね」
「はぁい」
 そう言って彼女はお盆を手にして部屋を後にした。
 怒った美人は怖いぜ全く。
 追い出されたりしないためにも、彼女のお怒りポイントを把握しておくべきだろうか。
 今の所、逆らったりしなければ大丈夫そうだ。まぁ、適当に甘えておけば良さそうな気もするけど。そうだよ、なんかこう、アニマルセラピー的なやつを私に求めてるのかもしれないし、彼女の言葉に異議を申さないようにしておこう。
 それにしても川なんてあるのか。もしかすると、あの霧がかって薄く見えている池と繋がっているのかな。きっと、小川みたいなものだろう。
 それに、仕事とはなにをしているのだろう。私が目覚めた部屋からこの部屋まで、ただの家にしてはそこそこの距離があったし、ものすごい豪邸っぽいここを一人で支えているなんてかなりの高給取りだろう。
「しっかり昼休みもあって夕方には帰ってこれて給料良いなんて最高だなー良いなー」
 ぶっちゃけかなり羨ましい。