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 ハンバーグは美味しかった。
 目玉焼きの乗ったハンバーグ。エビフライ。旗付きのケチャップライス。デザートのプリン。
 全てがワンプレートに乗せられていて、どこのお子様ランチかと思ったくらいだ。だけどまぁ、お子様ランチなんて小学生以来だし、なつかしさもあって全部美味しくいただいたとも。
 晩御飯の後、お片付けのお手伝いも一応申し出てみたけど、これもやっぱり断られてしまった。なんていうか、彼女、おこちゃまはおこちゃまらしく過ごしていて欲しいっぽいみたいだ。食べて遊んで、疲れたら寝て、みたいな。そういうの。
 私が片づけておくから、お風呂に入ってらっしゃい、ちゃんと百まで数えるのよ。なんて、言われたからお風呂に入った。
 想像してたけど、お風呂もやっぱり広かった。なんだこれ温泉? って感じ。もともと豪邸として建てたとかじゃなくて、旅館をそのまま買い取ったりしたのかもしれない。金持ちカッコカリの考えることは庶民には分からねぇや。
 広い風呂に一人で入るのちょっと怖いなー頭洗ってる時に鏡になんか写ったりしたら嫌だなーとか考えていたけど、別に心霊現象は起こらなかった。
 すっかり温まってお風呂から出ると、服を入れておいた籠の中に子供用の紺色の甚兵衛が入っていた。昼の間着ていた制服みたいなあの服は無くなっていたので、彼女が回収したのだろう。洗濯機行きだろうか。いやでも、あの謎の防具的なやつってどう洗うの? 手洗い?
 細かく考えても仕方がないので、用意されていた甚兵衛を着る。おお、サイズぴったり。
 お腹がいっぱいで、お風呂にも入って、これで眠たくならないはずもなく。でも自室の場所は忘れた。……いや、方向音痴とかじゃないよ。ちゃんと覚えようと思って注意したら覚えられるよ。
 と、まぁ、ここでぐだぐだしていても仕方がないので。
「お母さーん!! 俺の部屋どこー!!」
 場所が分からないなら聞けば良いのじゃ。HAHAHA。とりあえず風呂場の入り口で大声で叫ぶと、少ししてぱたぱたと彼女が駆けてきた。
「また迷っちゃったの? 仕方ない子」
 そんなことを言いながらも、その様子はどこか嬉し気だ。小さい子に素直に頼りにされるのが嬉しいらしい。
「それじゃあ迷わないようにしましょうね」
 にこにこと私の手を取った彼女について歩いていくと、自室へと着く。ふんふん。これで風呂場と自室の道のりは覚えたぞい。
「よく眠れるように、お香を焚いておいたわよ」
 部屋に入りすん、と鼻を鳴らすとなるほど。甘くて、落ち着くような匂いがする。匂いの元は、床の間に飾られた香炉らしい。
「分かったー。じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい。包丁くん」
 す、とふすまを閉めて彼女は居なくなった。
「布団だー」
 彼女は敷いてくれたのだろう布団に寝転がり、天井を見上げる。
 これで初日が終わる訳だけど、これってどういう感じなんだろう。ゲームなら達成すべき目的があるし、夢なら夢で物語が紡がれる訳だが。なんか、私と彼女でこれ以上話が進む気がしない。
 ……まぁ、いいか。
 色々と考えなきゃいけないことはあるはずなのに、甘い香の匂いが全てを溶かしていった。