匙加減

「鯉登くん、月島軍曹」
 昼飯時をいくらか過ぎた頃だろうか、後ろから呼び止める声が聞こえたのは。鯉登の後ろについて歩いていた月島は立ち止まり、前を歩いていた鯉登は振り返った。
「名字、どげんした?」
「お饅頭をいただいたので分けようと思いましてぇ。月島軍曹もいかがですかぁ?」
 そういってにこにこと笑う名字に、鯉登はそれは良いと快諾したが月島は何だか面倒な気がしていた。この二人が揃うと、主に鯉登の相手は名字がするのだがどうにもその空間は独特で、居難かった。どうしたら体よく逃れられるだろうかと一瞬模索したが、離脱したならしたで、後ほど更に面倒な事態になる予感もあった。ここは、大人しく従った方が良いだろう。乗り気の鯉登と笑っている名字にはさまれて、月島は諾の言葉を返した。
 ついでに茶も淹れよう、ということになり食堂まで移動してきた。遅い昼食をとる者もいるようで、まばらながらも人気があった。天気が良かったので窓際の席に座ることにした。月島と鯉登が隣に座り、その向かいに茶を淹れた名字が腰を下ろす。
「この前開店したばかりのお店のものらしいですよぉ」
「名字お前また貰ったのか」
 激情型の鯉登とどこか掴みどころのない名字、この年若い少尉たちは案外仲が良い。
 士官学校で同期だった二人は、お互いのことを良く知っている。月島は初め、色々なところから良く貰い物をする名字に驚いたものだが、それらは士官学校時代でもあったことらしく、鯉登はまた貰ったのか、とあっさりしたものだった。
 実力としてはもちろん鯉登の方がはるかに上だろう。名字は実戦経験に欠け、なにより弱かった。その実力で士官学校に入ろうとしたな、と思っていた。しかし本人から、自分は三男だから入れられたのだと言われ、納得した。
 軍人としては心もとない、薄い体だ。それに比べ頭は回るようだから、参謀としてなら揮うだろう。名字が作戦を立案し鯉登が実行する。なるほど、良い組み合わせかもしれない。鯉登なら、多少の無茶もやってのけるだろう。ただ、今の所その実力はとある一人のためにあるものだが。
 饅頭を食べながら、月島は二人を眺める。
 初めは饅頭屋の話をしていたのだが、次第にずれていき今は鶴見の話になっている。これも、いつものことだ。
 月島は、鯉登の鶴見談義はすっかり聞きなれてしまって最近では流すようになっている。だが名字はそれをいつもしっかりと聞いている。次第に鯉登が興奮して、早口の薩摩弁になっていたとしても。放たれる言葉の多さとは裏腹に、いつもそこにはどこか穏やかな空間が出来上がっていた。それは、普段から気を張っている月島の肌には合わないものであった。
 鯉登の話を受け止めて、それに対して何も返さない名字。
 思う存分鶴見の話が出来て嬉しいのだろう。もし名字が居なかったらその話を全部自分が受け止めるしかないのだろうと思うと、月島は何も考えたくない気持ちになった。鯉登と名字が友人で本当に良かった。
 聞き取りにくい薩摩弁を聞き流して、月島は茶を啜った。饅頭の甘さに茶の渋みは良く合う。
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あとがき
この度は企画にご参加くださりありがとうございました!
メビレコ主がもし第七師団所属だったら鯉登と同期だろうな、というお話です。曲がりなりにも軍人ですので本編よりは戦えるはず、です。主人公もこれからじわじわ過去が明かされていきますので楽しみにお待ちくださると嬉しい限りです。