日陰に咲く
用心棒として土方と行動することになった。
その際牛山と共に紹介されたのが、名字という男だった。
常時へらへらと軽薄そうに笑い、その口元は愉快そうに歪んでいる。一見人当たりの良さそうに見える男だが、その瞳の奥はほの暗く濁っていた。いつもその目を真っ直ぐに向けてくる、不愉快な男だ。
尾形自身も、表情から感情が読み取りにくいと評されることがままあったが、名字はそれ以上だと思った。いつ見ても笑っている。その裏の感情が、読み取れない。
一応武器として短刀を携えているがその腕前はてんで駄目で、かなりの使い手である土方どころか銃を主体とする尾形の方がよっぽど使いこなせるだろう。薄い肉付き、人殺しなんてしたことがありません、と全身で物語るその男が、どうにも尾形を苛立たせた。
いざという時の盾にしかならなそうな名字を傍に置く土方にどうにも違和感しか覚えないが、土方のことをおじいちゃんと呼び慕う名字に、二人はそういう関係なのかと邪推をしてみたりもしたが、どうにも違うらしい。囚人時代から仲が良かったらしく、今でもその関係のままらしかった。
それでも。
土方歳三という男が、たかだか監獄で仲が良かったからというだけで名字のような男を傍に置くはずがない。
だから名字には、土方が目を置くだけの何かがあるのだ。
その何かが尾形にはまるで理解できず、ただただ納得のいかない気持ち悪さだけが澱のように残っていた。
立ち寄った宿屋の一室。警戒を向ける尾形を尻目に名字は呑気に茶を啜っている。部屋の片隅、銃を抱え身を守るように座る尾形とは逆に、中央にある卓袱台に向かいその間抜け面を晒している。
都合の悪いことに、土方や永倉どころか牛山さえ居なかった。
用事もなく、特に情報収集をする気も起きなかったので宿に残ることにしたが、失敗した。これなら牛山についていって女の嬌声でも聞き流していた方がまだましだった。
「そうやっていると、尾形くんは本当に猫に似ているよねぇ。懐きはしないけど距離を取って様子をうかがっている子にそっくり」
「…………」
何を考えているかまるで読めない。
時折こうして名字は話しかけてくるが、どれを取り上げても尾形には全く意味のないものだった。その度に無視をしていた。気が向けば、視線をくれてやることもあったが。
「それに……兄様にも少し、似ているかなぁ」
屈託のない笑顔。
両親から祝福されて生まれた子供。
むわりと立ち上る死の赤い匂い。足の裏に刻まれる敵とも味方とも判別つかない肉の塊。爆裂音や銃声が耳の奥に残り、死と生の境界を曖昧に溶かしていく。積み重なる死体を足場にして銃を構える。その銃口はぶれることなく家族であったかもしれない男の頭を捉える。
飛ぶ鳥を落とすことよりも簡単なことだった。
朝日の旗は地に落ち、それを支えていた男もまた地の門を潜っていった。
「その呼び方は止めろ」
「何故?」
本当に、嫌味な男だ。
二人の兄が居たというがはたして、どちらを尾形に重ね合わせているのか。
「死にたいんなら止めはしないぜ」
自分を兄様などと呼んで笑う男を、もう一度殺してやりたくなるじゃないか。
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あとがき
この度は企画にご参加くださりありがとうございました!
メビレコ主と尾形とのやり取りを番外編でもIFでも構わない、とのことでしたので、今回はIFで土方一行に着いていった主人公と尾形とのやり取りのお話です。お互いにちょっと複雑な「兄」と「弟」ですので、なんとなくお互いの兄弟と重ねて見ている感じですね。本編の方でも進んでいけばいつか邂逅する二人ですので、その時まで気長にお待ち頂ければ嬉しいです。