優しい声






「生駒ちゃんお疲れさまー
もう上がっていいよー」

「あ、はいっ お疲れさまです…!」



初めてまた数日の慣れないバイトは
あっという間だった。

着替えて携帯を見てもまだ着信は無く
帰り道 家まで15分の距離を歩く間に話しようと
あたしは震える手を集中して通話ボタンを押した。
3回コールして出なかったら諦めよう。
そう思って電話をしたら直ぐに出てくれた。



「《はい。》」

「!、あ、あたし!です!」

「《…うん。久しぶり。》」

「久しぶり…今大丈夫だった?」

「《うん。ちょうど1人になったとこ》」

「そっか…良かった…」

「《皆んな寂しがってたよ。特に木兎さんが》」

「……ごめんね。」

「《仕方ないよ 親の転勤なんだから。
木兎さんだって、だから珍しく大人しくて…》」

「じゃなくて、京治に対してごめんなさい。」

「《……あの時も聞いたと思うけど、
俺 傷付けるような事した?》」

「違う…違うよ…」

「《じゃあ どうして急に?》」

「……京治の邪魔したくなかったから…」

「《…俺の邪魔…?》」

「引っ越しが決まった時も京治は連絡取り合おうとか
全国大会見に来てねとか前向きな話してくれたけど…
あたしはそれだけじゃ満足出来ないと思った…
毎日京治の顔を見て幸せだったし、
一緒に帰る道が凄く好きだったから
離れてたら今何してるのかとか
女子と話したりしてるのかなとか…
そういうモヤモヤが出て来るって自信しかなくて…
そんな嫉妬ばっかする重い自分嫌いだし、
それで京治がバレーに集中出来なくなるのが嫌だった…」

「《だから別れるのを選んだの?》」

「……うん。」

「《その嫉妬 自分だけだと思ってたの?》」

「え…」



あたしは思わず歩く足を止めた。
時々寄り道するコンビニが近い。



「《俺も寂しさは同じだったし、
連絡すら取れなくなったここ一ヶ月キツかった。》」

「ほんと…?」

「《本当だよ。遥が俺を好きでいてくれたように
俺も遥の事が好きだったのに
自分だけだと思っていた事に驚いてる。》」

「だって…告白あたしからだったし、」

「《両思いだから付き合うんじゃないの?》」

「それは…うん…」

「《とにかく…嫌われたわけじゃなくて良かった》」

「京治の事は本当に好き…です」

「《うん 俺も。だけど、
今は寄りを戻すのはやめておこう》」

「………うん」

「《遠距離の状態で戻っても
きっとこういうぎこちない状態になると思う。
お互い会って顔を見て、その時も好きだったら
今度は俺が告白すると思う。》」

「…分かった。京治は本当に優しいね。
あたし応援に行くから、絶対。」

「《うん。俺も頑張るよ。》」

「うん。」



あたし達は寄りを戻す事なく
友だちとして連絡は出来る状態になった。

京治はやっぱり大人だ。

会った時に好きでいてくれたら嬉しいな。
京治から告白されたら本当に幸せだと思う。