「ヴィランンン!!?
バカだろ!?ヒーローの学校に
入り込んで来るなんて アホすぎるぞ!」
上鳴くんの叫びは、広い訓練場の空気を
切り裂くように響いた。
ついさっきまで「訓練」だったはずの場所は、
黒い靄と異様な気配に支配され、
現実味のない緊張を孕んでいる。
胸の奥がざわつく。
初めて目の当たりにする、本物の敵。
訓練ではない、現実のヴィラン。
「先生!侵入者用センサーは!」
八百万さんの声は冷静であろうとしていたが、
わずかに緊張が滲んでいた。
「もちろん ありますが…」
13号が答える。
だがその声にも困惑が混じっている。
侵入者がいれば必ず反応するはずの防衛システム。
それがまるで、
存在しないかのように沈黙していた。
その異常さに、空気が一段冷たくなる。
「現れたのはここだけか、学校全体か…
何にせよセンサーが反応しねぇなら向こうに
そういう事が出来る個性がいるって事だな。
校舎と離れた隔離空間…
そこに少人数が入る時間割…
バカだがアホじゃねぇ。
これは 何らかの目的があって
用意周到に画策された奇襲だ」
轟くんの声は淡々としていた。
その落ち着きが、状況の深刻さをより
はっきりと浮かび上がらせる。
(奇襲……)
つまり、最初から狙っていたということだ。
「13号避難開始!学校に連絡試せ!
センサーの対策も頭にあるヴィランだ!
電波系の個性が妨害している可能性もある!
上鳴!お前も個性で連絡試せ!」
相澤先生の指示が鋭く飛ぶ。
一瞬で状況を整理し、役割を振り分ける。
迷いのない声だった。
「先生は!?ひとりで戦うんですか!?
あの数じゃ いくら個性を消すっていっても!
イレイザーヘッドの戦闘スタイルは、
敵の個性を消してからの捕縛だ!
正面戦闘は………」
緑谷くんの声には焦りが滲んでいた。
確かに、広場に集まっている
ヴィランの数は異常だ。
だが相澤先生は短く言った。
「一芸だけじゃヒーローは務まらん。
13号任せたぞ」
そう言い残し、ゴーグルを装着する。
空気が一瞬で張りつめた。
そして――次の瞬間。
相澤先生は、
群がるヴィランの中へ飛び込んでいた。
一人で。
躊躇もなく。
次々とヴィランを倒していくその姿に、
思わず息を呑む。
(すごい……)
あれが、プロヒーロー。
「皆さん 早く!」
13号の声が響き、生徒たちは一斉に走り出した。
出口へ向かって。
背後では戦闘音が続いている。
しかし――
出口へ向かった瞬間だった。
黒い靄が、ゆっくりと形を成す。
まるで道を塞ぐように。
「初めまして 我々はヴィラン連合。
僭越ながら…この度 ヒーローの巣窟
雄英高校に入らせて頂いたのは
平和の象徴 オールマイトに
息絶えて頂きたいと思っての事でして。
本来ならば ここにオールマイトが
いらっしゃるはず… ですが
何か変更あったのでしょうか?
まぁ… それとは関係なく…私の役目は これ」
丁寧な声だった。
だが、その奥に潜む悪意は隠しきれていない。
次の瞬間。
「「おりゃあああ!!!」」
爆豪くんと切島くんが飛び出した。
躊躇のない突撃。
しかしそれは――
(このままじゃ……!)
黒い霧がゆらりと揺れる。
危ない。
そう思った瞬間、体が先に動いていた。
「ダメだ!どきなさい 2人とも!」
13号の声が響く。
その横で、光が弾けた。
足元に光を集める。
視界が白く閃く。
スターライト。
閃光が黒い靄を照らす。
「危ない危ない……そう…
生徒といえど優秀な金の卵」
霧はゆらゆらと蠢く。
その中で、黒い声が続いた。
「私の役目はあなた達を
散らして 嬲り殺すこと!!!」
次の瞬間。
黒い靄が一気に膨れ上がった。
視界が歪む。
上下の感覚が消える。
足元の地面が消えた。
体がふわりと浮く。
(……っ!?)
反射的に光を足元へ集める。
スターライトで浮力を作る。
視界が戻った。
そこは――
崩れたビル
コンクリート粉塵
瓦礫の山
薄暗い暗い空間
状況の通り倒壊ゾーンだった。
そして周囲には、すでにヴィランが立っていた。
数人。
いや、もっといる。
その視線が一斉にこちらを向く。
隣を見る。
爆豪くん。
切島くん。
三人とも、同じ場所へ飛ばされていた。
状況は理解した。
ここはもう、訓練じゃない。
本物の戦場だ。
胸が強く脈打つ。
怖くないわけじゃない。
でも――
(ヒーローとして戦うんだ)
その実感が、体の奥から湧き上がってきた。
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