侵入


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「はっ!」

「まだまだじゃ」

あれから更に数日。

浦原商店の地下修練場で、
紫乃は始解した宵椿を手に、
夜一との修行を続けていた。

紫乃が鉄扇を振るう。

その一撃を、夜一はひらりと身を躱した。

「そこじゃ!」

返す刀ならぬ、返す蹴り。

夜一の脚が紫乃の懐へ迫る。

「――っ!」

紫乃は即座に反応し、鉄扇を縦に構えた。

ドンッ!

鉄扇越しに強烈な衝撃が伝わり、
紫乃の身体が僅かに後退する。

鉄扇を振るった、その瞬間。

そこに生じる僅かな隙こそが、
今の紫乃の大きな弱点だった。

大きな鉄扇を自在に操るためには、
それだけ身体の動きも大きくなる。

ならば、その隙をなくすしかない。

紫乃はひたすら身体を捻り、
舞うように足を運び、鉄扇を返す。

一つの動作から次の動作へ。

攻撃から防御へ。

防御から攻撃へ。

動きを止めず、流れるように繋げる。

目的は、鉄扇を振るった直後に生じる
僅かな隙を潰し、反応速度そのものを
引き上げることだった。

「遅いぞ!」

「はいっ!」

夜一の声に、紫乃は即座に応える。

鉄扇を翻し、身体を捻る。

その動きは、まるで舞うようだった。

そんな二人の修行を、
少し離れた場所から浦原が見守っていた。

懐かしい光景だった。

かつて二番隊で、何度も繰り返された光景。

そして今、その隣では恋次と茶渡も、
それぞれの修行に励んでいる。

浦原商店は以前よりもずっと賑やかになっていた。

けれど、その賑やかさとは裏腹に、
誰もが次の戦いを見据えている。

尸魂界の十二番隊技術開発局の仮説では、
藍染の真の目的――王鍵の完成は
冬になる見込みだという。

それまで、あと一ヶ月。

その間に、十刃と渡り合えるだけの
力を身につけなければならない。

一護が強くなるために仮面の軍勢を頼るように、
ここにいる者たちもまた、
それぞれの方法で力を求めていた。

そして――その修行の日々を遮るように。

空座町の空が、黒く引き裂かれた。

「……!」

紫乃が動きを止める。

黒く裂けた空。

破面たちが現れる際に開かれる、黒腔だった。

そこから、異質な霊圧が流れ込んでくる。

一つ。

二つ。

三つ。

そして――四つ。

「……四体?」

紫乃が鉄扇を握り直す。

夜一、浦原もまた、その霊圧を感じ取っていた。

修練場に張り詰めた空気が走る。

「喜助!」

夜一が浦原を呼ぶ。

「この霊圧は、まずいっスね……」

浦原は扇子を閉じ、
地上から伝わってくる霊圧を探る。

その表情から、先ほどまでの軽さが消えていた。

「四体全員、恐らく十刃……
もしくは、それと同等の力を持つ破面っス」

紫乃の表情が変わる。

「すぐに恋次にも伝えて、応戦を――」

紫乃は恋次たちのいる方へ身体を向けた。

しかし、その腕を浦原が止める。

「いえ」

「喜助?」

「阿散井さんたちには、修行を続けてもらいます」

紫乃は驚いたように浦原を見る。

「喜助、何を……」

「もうすぐ、茶渡さんの修行が
完遂する予定なんス」

浦原は落ち着いた声で続ける。

「目の前の戦いだけじゃなく、
先のことまで考えるなら、その方がいい」

「……」

「それに、日番谷隊長たちでも
十刃を相手にするとなれば、
総出で何とか渡り合える程度でしょう」

浦原は、地上から伝わる
四つの霊圧へ意識を向ける。

「ここは、アタシも地上に出ます」

「……喜助」

紫乃は目を見開いた。

浦原自身が戦う。

それは、紫乃にとって少し意外な選択だった。

「データ採取、といった動機もあるんで」

浦原はいつもの軽い調子で笑う。

「そんなに気にしないで下さい」

紫乃は浦原の顔を見つめる。

そして、僅かに笑った。

「……分かった」

二人は互いに頷く。

紫乃は宵椿を握り直し、
浦原もまた地上へ向かう準備を整える。

四つの強大な霊圧が、空座町を覆っていた。

次の戦いが――始まろうとしていた。








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