炎ノ祭囃子












         人の死因にも色々ある




         老衰  自殺  病死




   今この世で最も多く人々を恐怖させている死因は









            焼死だ









          たった一度のこの命




         華ぁ咲かせてあげやしょう




















ーーーーーー…*°








太陽暦佰九十八年 東京 浅草




カンカンカン!!

「火事だ火事だあ!!」

「二丁目の櫻子が焔ビトになっちまった!」

「頼むよ紅ちゃん!!」

「祭りだテメェら!!」



浅草の町はいつも賑やかだ。
活気付いて笑いが飛び交う町に焔が生まれると
浅草一の暴れん坊 新門紅丸が祭りを挙げる。

纏に炎を発火させ飛び出し、
投げ出された纏にも着火させ町の至る所へ飛んでいく
逃げ遅れた町民がいないよう他の消防隊員は誘導させ
焔ビトになった櫻子の元に二人の消防官が出る。



「手前が弔え、燐子」

「はい。」



二丁目の和菓子屋の娘 櫻子は
正式に消防官に成り立ての明澄燐子の親友だった。

燐子が大好物のみたらしを櫻子も両親の店継ぐんだと
一番に覚えて作ってくれた事もあった。
そんな優しい櫻子が今目の前で身体は黒く炎を纏う。
本当は叫びたくなる程悔しい感情を抑え、
スゥーと息を吐き、腰に掛かる刀に手を添える。





"町の皆んなは新門紅丸に弔って欲しいけどさ、
ワタシはアンタ。明澄燐子に弔って欲しいよ。"





「そんな願い 叶う日なんて来なくて良かったんだよ。」




「ガァああああ!!!」




"炎舞 一ノ型 炎衝-えんつい-




ドスッと鈍い音がして燐子の刀は一瞬で焔ビトの胸を貫く

ホロホロと身体が灰になり
風に乗って煙と共に浅草の町から離れていく。
その灰を刀を鞘に戻した燐子は胸を締め付けられ
ジッと見つめると、



「よくやった。櫻子もお前に弔われて嬉しいだろうよ。」

「………其れが願いだったんだ。」



紅丸の手が燐子の頭に乗り、重みと温もりがのし掛かる。
自然と下を向く形になった燐子は手を除けようとせず
そのまま地面を見つめ、収めた刀をグッと握り締める。



「!」



それを察した紅丸は燐子の束ねた髪を掴み、
グイッと顔を上げさせた。



「いつまでもシケた面すんじゃねえ。壊れた家直すぞ。」

「っはい!」



目に溜まりそうな涙をグイッと袖で拭い、
すぐに道具のある詰め所へと駆け出した。

浅草の弔いは町を派手に壊して花火が上がる。
喧嘩好き派手騒ぎ好きの浅草らしく
浅草の破壊王と呼ばれる新門紅丸に
どうせなら弔って欲しいと
浅草の住民は皆んな思っていた。

破壊王に壊された住民は第七の詰め所に泊まる。
壊した分は火消しの奴らで修繕する。
燐子も屋根の上で板をトンカンと金槌を鳴らす。



「燐ちゃん!こっちも頼む!」

「あいよー」



燐子は屋根から屋根へと飛び移ってまた板を貼る。
そんな様子を下で見廻りをしていた紅丸が眺めると
中隊長の紺炉が歩み寄って来た。



「気になるんですかい?」

「?、何がだ。」

「燐子ですよ 今見てただろ。」

「ちゃんと仕事してるか見ただけだ。」

「初めての弔いが親友になっちまいやしたから
燐子にとっては辛い事でしょうよ。」

「……これから幾らでもありえる事だ。
毎回落ち込まれちゃ溜まったもんじゃねえ。
お前は優しいな 紺炉。」



紅丸はそう言って紺炉から離れていく。



「……そりゃあんたもだろうよ 紅。」



紺炉はやれやれといった表情で紅丸の背中を見つめる。
すると紺炉に気付いた燐子は屋根から飛び降りる。



「中隊長!」

「燐子。修繕は順調か?」

「はい!こっちはあと三棟で土台は終わります!
今 若来てやせんでしたか?」

「ああ。お前ぇの様子を見て去ってったよ。」

「そっすか…」

「櫻子に手向が出来て良かったな 燐子。」



紺炉はそう言って燐子の頭に手を乗せる。



「…はい。櫻子も若よりアタシにやって欲しいって
昔言ってくれていた事があったんです。」

「そうかい。良かったな。」

「若はまだアタシが弱っちい奴だと思ったかな…」

「若がそんな奴なわけねえだろ。
よくやったって褒めてくれてたじゃねえか。
俺も見てたよ。綺麗な抜刀だった。」

「中隊長…」

「お前さんには笑ってて貰わねえと
俺も若も調子が出ねえよ。」

「ありがとうございます!」



燐子は深々と頭を下げた。
それを見て紺炉は優しい表情をして
燐子のもとから離れていった。









此処は浅草

炎に負けない力強い町だ。