浅草ノ朝







燐子の私生活は長年詰所にいると女っぽさが抜ける。
布団を邪魔くさそうに捲り上げ片足を立て
もう片足は大の字に開き、両腕は頭上に伸びて
ガサツで大っぴらな寝相に悪い時はヨダレも足らす。
そんな彼女は寝起きも良く無い。然し此処には
目覚まし時計よりも確実に起きる目覚ましがいる。



ピョーン「燐子ー!朝だぜー!」ボスンッ

ピョーン「早く起きねえと飯抜きだぜ!!」ボスンッ

Σ「ぐへっ!!」



腹部にかぶさるヒナタとヒカゲの重みで毎朝目が覚める。
朝からむせて咳き込み燐子の朝は騒がしかった。



「ヒカ!ヒナ!朝起こすなら優しく起こせよ!
これは最終手段にとっとけ!!(怒)」

「これが一番早く起きれるんだからいいだろ!ケヒヒ!」

「起こしてやるだけ有り難く思いやがれ!ケヒヒ!」

「お前らなぁ…(汗)」

「おい。さっさと支度しねえと髪やってやんねえぞ。」

「わかー!やってやってー!」

「今日も可愛いお団子にしやがれ!」

「燐子もさっさとしろよ。」

「…へい。」



燐子ははだけた寝間着を脱いでいつもの服に着替える。
そして他の消防官等が集まっている井戸で顔を洗い
すれ違う隊員等に朝の挨拶をして
ヒナタとヒカゲの髪を結っている紅丸の部屋に向かった。



「若ー。入ります。」

「おう。」

「おっせーぞ燐子!」

「朝飯オメーの無くなっても知らねえぜ!」

「紺炉中隊長に怒られんのテメーらだかんな!(怒)」



襖を開けるとドタバタと騒がしく出て行く
ヒナタとヒカゲに燐子は怒鳴り返して
双子は怖がるどころかケヒヒ!と笑って行った。



「ったく…手前ぇ等は大人しく出来ねーのか。」

「大人しい時はそりゃ病気です若。」

「…それもそうか。ほら、さっさと座れ。」

「はい。」



燐子はぽんっと叩かれた胡座をかいて座る紅丸の前に
ちょこんと膝を抱えて座ると紅丸は髪を取り、
寝癖を直す為に軽く濡れた髪を手元の手拭いで
わしゃわしゃと軽く拭き取り、
長く艶やかな黒髪を椿油が塗られた櫛で
慣れた様子で丁寧に梳かして高い位置で一つに纏めた。



「ほら、出来たぞ。」

「ありがとうございます!」

「……お前いつまで俺にやらせるつもりだ?」

「え?ヒナタとヒカゲのやらなくなるまで?」

「アイツらと同レベかよ…」

「私がやってたら下手くそで時間もかかるし
若がやってくれた方が綺麗じゃないすか。」

「……」

「…若がメンドーなら中隊長に頼みます。
すいやせんでした。」

「……いい。俺がやってやる。」

「!、ありがとうございます!」



少しショボンとした燐子を見て紅丸は無碍に出来ず
そのまま髪を結ってやる事にした。
すると燐子はすぐにパッと表情が明るくなり
相変わらずコロコロ表情が変わるやつだと
紅丸の表情が少し柔らかくなった。



「おら、さっさと下へ降りるぞ。
あいつらの事だから朝飯取られるぞ。」

Σ「やべ!今日厚焼き卵 中隊長にねだってたんだ!
ヒナタ!ヒカゲ!朝飯に手出してたら許さねえからな!」



バタバタと紅丸を置いて走り去る燐子に
紅丸はフッと騒がしい奴だと笑みを浮かべた。


















ーーーーーー…*°




朝飯の支度が出来て食堂に隊員らが座布団に座り、
一斉に米を頬張り味噌汁をすすり厚焼き卵に手を伸ばす。
ガヤガヤと賑やかな食卓の少し離れた場所で
炊き立ての白米と味噌汁と漬物そして厚焼き卵を
長いテーブルに並べているとヒナタとヒカゲは
素手で漬物をつまみ食いをすると紺炉に注意される。



「あたしの厚焼き卵ー!!」

「燐子 走ってくんじゃねえ。埃まうだろ。」

「だって!ヒカとヒナがあたしの厚焼き卵
食うとか言うから!(汗)」

「疑ってんのか!」

「お望み通り食ってやってもいいんだぜ!」

「そしたらテメーらの貰うかんな!」

「またデブるぞ!」

「またデブったの知ってっぞ!」

「筋肉がついたんだ!(怒)」



ギャンギャンと騒ぐ三人に紺炉は呆れて
ため息を吐きながら胡座をかいて座ると
続いて紅丸もやってきて朝飯を囲んだ。



「燐子、ヒナタ、ヒカゲ。ちったぁ大人しくしろ。
朝からうるせーんだよテメーらの喧嘩は。」

「燐子が大人げねえんだ!」

「大人げねえー!」

「売られた喧嘩は買うもんだって若が言ってたし!」

「若…」

「知らねえな…」



箸を手に取った紅丸を皮切りに
燐子とヒナタヒカゲ、紺炉も手を合わせて
「頂きます」と言って箸を手にして食べ始める。
そこらへんの礼儀が雑な紅丸は先に食べ始めていた。



「ったく…若の受け売りですぜ」

「文句なら受け付けねえぞ」



紅丸はそう言って味噌汁をすする。



「そういや若、皇国から手紙が届いてやした。
何やら今年入隊した奴らで催し物があるようでして、」

「くだらねえ…適当に破いて捨てとけ」

「へい。」

「(催し物…)」

「なんだ、興味あんのか燐子。」

Σ「え!なんで!?(汗)」

「手前は顔にすぐ出んだよ。」

「別に…皇国となんか関わりたくねえけど、
催し物ってなんだと思っただけです…」

「誰が新人で強えかって見世物だろ。」

「へー。暇なんすね皇国。」



燐子は聞くだけ聞いといて興味なさそうに
漬物に箸を伸ばしてポリポリと食べる。
浅草生まれ浅草育ちとなると
此処から出た事はないが出たいと思った事もない。
焔ビトを鎮火するにも鎮魂という宗教的な事が
絡んできてめんどくさい集団というのを聞いてる。

そんな奴らと関わる事なんてゴメンだと
燐子は催し物に出たいとは思わなかった。



「燐子。飯食ったら稽古だ。」

Σ「うえ!?は、はい!(汗)」

「皇国なんか行かなくても轟かせる程強くなりゃ良い。
弱いもん同士で強え奴決めたところで
浅草には手前がいるって事をよ。」

「、はい!」



紅丸は負けず嫌いだ。
自分が育てた燐子を強い奴がいると
皇国の奴らに知らしめてやろうかと
それほど燐子の実力には期待していた。

自分と同じ、でも違う煉合能力者
最強とまではならなくてもいい。
ただ、強くあって欲しいと思う。