浅草ノ夜







「ただいまー!」

「おう 燐子。工房はどうだった?」

「いつも通り賑やかでした!
若は?帰ってますか?」

「若ならまだだよ。
もうちょい暗くなったら
腹すかして帰ってくんじゃねえか?」

「誰かと呑む約束してないっすか!?(汗)」

「さ、さぁ…そりゃ知らねえけどよ…(汗)」

「ちぇー」

「なんだい 若にあげるもん作ったのかい?」

「ちゃんと紺炉中隊長にもあります!」



燐子はそう言って風呂敷を解いて木箱を開ける。



「徳利とお猪口か。これ燐子が一人でやったのか?」

「はい!」

「ありがとよ。こりゃ若にも見せてやらねえとな」

「早く帰って来ねえかなー」

「酒に合うもん作って待っとくか。」

「あたしも手伝います!」



その日の夜、紅丸は他所で呑んでいるのか
夕食には帰って来なかった。











ーーーーーー…*°




「燐子、ヒカヒナを銭湯連れてってくれ」

「へーい…」



広間で刀の手入れをしていた燐子に
紺炉が声をかけると気の無い返事が返る。
その燐子の反応に紺炉はやれやれと息を吐いた。



「若が帰って来ねえのはいつもの事じゃねえか。
何不貞腐れてんだい。」

「してねえし…」



紺炉は燐子の頭をワシワシと撫でる。
紅丸にやって貰った団子が少し乱れ、
燐子はされるがままに揺れる。



ガラガラー

「若ー!」「おっせーぞー!」

Σ「!」

「お、帰ってきたな。」



ヒカヒナの声がして燐子もビクッと反応する。



「………」

「燐子も出迎えねえのか?」

「風呂の支度してきやす。」



燐子はそう言って階段を上がって行った。



「やれやれ…(汗)」

「紺炉。」

「若 おかえり。今日は飲み行ってたのか。」

「ちょっとな。燐子は?」

「若が帰って来ねえから不貞腐れてやすぜ。」

「?、なんでだよ。」

「渡したいもんがあったようで…」

「あいつは?」

「今 湯屋の支度しに上に行ってやす。」

「ちっ…しょうがねえ奴だな…」



紅丸はそう言って階段を上がって行き
紺炉は紅丸に任せれば大丈夫だろうと
ヒカヒナに風呂に行く支度をさせた。



「燐子。出て来い。」

「へい…」

「俺の事待ってたんだろ?なんだよ。」



部屋から燐子は口を尖らせて出てきた。
見るからに不貞腐れているが紅丸は慣れている。



「…今日 工房来てたらしいっすね」

「あぁ、それが何だよ。」

「いつもは来ないのになんでですか?」

「俺に渡すもんがあったんじゃねえのか?」

「話逸らす気ですか?」

「俺は手前の用に付き合ってんだよ。」

「あたしの用はなんで工房に来たかです。」

「……ちっ…手ェ出せ。」

「?」



紅丸は参ったように頭を掻き、
燐子に手を出させると
懐から何かを取り出して燐子の手に乗せた。



「これ…」

「その辺で売ってて何となく買ったもんだ。
工房に寄ったのはお前がいると思ったからだよ。
顔の怪我悪かったな。今朝は厳しくなっちまった。」



燐子の手に乗せられたのは
ガラス瓶に入った色鮮やかな飴玉だった。



「明日は雨ですか?」

「ああ?俺が優しいんじゃ可笑しいか?」

「怪我すんのは火消しとしてしょっちゅうあるもんです。
稽古で顔に怪我したのもあたしの力量です。
若が気にするもんじゃないです。
それとも若も嫁入り前の女に怪我させたなんて
そんな事思ってるんすか?」

「……悪りぃかよ。」

「あたしは嫁入りすんのが目標じゃないです。
先代や紺炉中隊長や若みてぇな立派な火消しになりたくて
稽古したり刀磨いたりしてるんです。
だから特別女だからって優しくしないで下さい。」

「……オメェの気持ちは分かったよ。
でも幸せを願うのも俺達の勝手だ。
手前の力量ってんなら顔に怪我しねえように気ぃつけろ。」

「っはい!」

「そんで、お前さんの用はなんだよ。」

「あ!紺炉中隊長には見せちまったんすけど
工房で作ってたもんが今日完成しまして…」



燐子は部屋から木箱を持ってくる。



「ほんとは夕食に二人で使ってるとこ
見たかったんすけど…」

「…綺麗なもんだな。良い酒が飲めそうだ。」

「大事に使ってください!」

「おう。ありがとうな。」

「へへっ」



紅丸は燐子の頭を撫でてあげた。
燐子は満足げに笑みを浮かべて
機嫌が一気に治り紅丸も呆れたように笑う。